【vol.79】漢方薬としても活用される 湿った岩場に生える多年草「イワタバコ」

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イワタバコ

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学名/Conandron ramondioides Siebold et Zucc.
分類/イワタバコ科イワタバコ属
分布/本州(福島県以南)、四国、九州、南西諸島
別名/イワヂシャ、イワナ、ヤマジシャ

同じ株から毎年花を咲かせる多年草。沢や清水が流れている湿った場所の陽が当たらないような岩盤質でよく見かける。根本から花茎が伸び、可愛らしく綺麗な星型の花をつける。山菜としても人気で、天ぷらや酢味噌和え、おひたしなどで食べられる。また、薬草としても知られており、胃炎や食べ過ぎ、飲み過ぎに効くらしく、苦味健胃薬として活用されている。

崖に咲くイワタバコ 

名前に“タバコ”とあるが、タバコとして利用されていたわけではなく、タバコの葉に似ていることから名付けられたと言われているイワタバコ。自生するポイントは、里山から奥山の日当たりの悪い湿った崖など。車を林道で走らせていると、沢水が流れる路肩の崖やコンクリートの隙間などでよく見つかる。条件が合えば群生し、花の季節は圧巻。1輪の花は数日間が寿命だが、蕾がたくさんついていて次々に花を咲かせる。

大きな特徴は葉の形にある。根本から伸びる葉の葉柄に葉翼があり、幅の広い葉柄に見える。1株に葉は2枚つき、垂れ下がった形が独特で覚えやすい。

葉をちぎられてもその株はまた育つので、採取する際には葉柄を残して葉だけを摘む。また、葉挿しで株を増やすこともできる。

天ぷらやおひたし、お茶など、さまざまな食べ方で山菜としても親しまれており、春から秋にかけて葉を食すことができる。また、味に苦味があることから胃腸薬として昔から用いられていて、漢方薬にもなっている。

山菜としては苦味があることから、天ぷらや炒め物などにすると食べやすい。お茶は少し手間がかかるが薄めて飲めば苦味もなく、野草茶として美味しい。夏に冷房で冷えて弱った胃腸にお勧めだ。

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シワシワで艶のある楕円形。1株に1〜2枚、垂れるように下向きに葉がつく。葉の縁はギザギザで葉柄までギザが続くのが特徴。

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花は星型で大きさは2cm程度。薄紫色の花びらで中心部はオレンジ色で目立つ。株によっては次々と咲く。

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岩の隙間や崖など、土や苔があるような場所に根を下ろす。深く潜り込む根とは違い、張り付くような感じだ。

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垂れ下がる2枚の葉の間から花茎が伸びる。夏に蕾をたくさんつけて、花が次々に咲く。冬には葉だけになり、縮んで小さな冬葉になる。

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野草茶にお勧めの植物・笹

身近な植物の中でも野草茶にお勧めなのが笹。笹の新芽や若葉をフライパンで煎ったら笹茶の茶葉が完成。キャンプで手軽に作るお茶として役立つ。笹なら種類は問わず利用可能。飲みやすく、竹の香りがほんのり香る。

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イワタバコの名前の由来

写真はイワタバコの名前の由来となったタバコ。原産は南アメリカで、日本では畑で育て葉をタバコに利用する。タバコの葉に似ていることから“イワタバコ”と名前がつけられたが、全く違う種だ。

イワタバコ茶を作る(夏編)

 

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1.1株2枚の葉の1枚だけを摘み、十数枚採取する。色々な食べ方を試すのであればその分採取。採取した葉は水に浸けて持ち帰る。

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2.ちょろちょろの流し水に浸けて葉についたゴミや土、虫を分離させる。苦味が強い葉なのでしばらく浸けることで緩和する。

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3.2に続いて流し水で葉の表面、裏面を丁寧に洗ってこびりついたゴミなどを取る。布やスポンジなどを使ってもOK。

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4.新聞紙の上やザル、干し網などに葉を置き、1~2日天日干しする。パリパリまでいかない程度。雨で湿らさないように注意。

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5.天日干しして、少ししんなりとしたら完成。ホコリや虫などがついていないかチェック。丸まっていてもちぎれていても大丈夫。

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6.フライパンを弱火で温め、干した葉を煎る。できれば裏表ひっくり返しながら焦げないように注意してパリパリにする。

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完成

葉を粗く粉々にして、急須や紅茶ポットなどに入れて熱いお湯で抽出。葉は十数枚で約800cc分。夏は冷蔵庫で冷やしても美味しい。

<その他の活用法> 若葉の山菜料理

春から夏にかけて出る若葉の天ぷらやおひたしなどが有名だ。苦味を味わえるおひたしも、若葉なら比較的食べやすい。おひたしは沸騰したお湯に浸けてアクを抜くとえぐみが消えて食べやすい。

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日本野生生物研究所 奥山英治

テレビ番組やアウトドア雑誌、書籍を中心に、自然あそびや生きものに関する監修など多方面で活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに、子ども向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ)、『大人も子どもも楽しい あたらしい自然あそび』(山と渓谷社)などがある。