ドライブするだけで命に危険が迫る国道をご存知だろうか。「国道」と聞けば、生活道路よりも道幅が広く、きちんと整備されている道をイメージしがちだ。しかし、全国にはそんな常識を根底から覆す、とんでもない国道が数多く存在する。そんな危険でエキサイティングな国道のことを、我々は“酷道”と呼んでいる。
今回の酷道

秩父往還ルートにダム工事
時代の変遷を感じさせる酷道
山梨県山梨市〜埼玉県秩父市
国道140号は、埼玉県熊谷市を起点に山梨県富士川町に至る。かつては県境の雁坂峠に車道が開通しておらず、ハイキングコースが国道に指定されていたが、1998年に雁坂トンネルが開通したことで解消されてしまった。では、どこに酷道区間が現存するのかというと、埼玉県秩父市の二瀬ダム周辺だ。今回、山梨県側から酷道区間を目指した。
甲府市街地からずっと国道140号を走ってきたが、山間部に入っても酷道要素は見当たらない。道の駅みとみを過ぎると、料金所が現れた。ハイキングコース国道を解消した雁坂トンネルだ。
トンネルを過ぎてしばらく走ると、川又観光トイレ付近で国道が南北二手に分岐する。直進して北側の新道を走れば2車線の快走路が続くが、私はもちろん左折して南側の旧道に入った。国道140号は江戸時代の街道〝秩父往還〟を踏襲している。この先に続く旧道は、まさに秩父往還のルートにあたる。
展開が早く、左折するとすぐにセンターラインが消え、酷道と化した。嬉しいことに、旧道にも国道標識が設置されていた。酷道沿いには栃本関所跡があり、秩父往還からの歴史を感じさせてくれる。
旧道と新道、2本の国道140号が並行しているだけでも珍しいのに、かつては旧道のさらに南にもう1本国道140号が通っていた。旧道は2本の道をそれぞれ一方通行にしていたが、2018年に最も南側の国道が秩父市に移管され、一方通行も解除された。
酷道は山間部に点在する集落をいくつも抜けてゆく。二瀬ダムの近くまでくると、センターラインが現れた。ダムの堤体上を通過する県道278号との分岐を過ぎると、幾つかの家屋が並んでいる。その家屋の間に、小さなトンネル跡が見えた。
封鎖されているこのトンネル跡は駒ヶ滝トンネルといい、実は2013年まで国道140号として使用されていた。そして、特筆すべきは、トンネル内で先ほどの県道278号と分岐していたことだ。トンネル内で対向車と離合することができないため、入口には信号機も設置されていた。
旧道の酷道をその後も荒川に沿って進み、分岐から10キロほど走ったところで新道と合流し、酷道区間は終了。秩父往還からの歴史、3本並行していた国道、トンネル内分岐の痕跡など、沿道でのダム工事の影響も大きく、時代とともに変遷し続けてきた酷道といえるだろう。
酷道は常に変化している。見逃さないためにも、行きたいと思ったらすぐに行かなければならない。そうした行動の基本を再認識させられ、身が引き締まる思いがした。

内部に交差点がある駒ヶ滝トンネル。2013年までは国道140号の本線だった。

新道と旧道の分岐地点。もちろん左折して旧道へ。

山道の合間に集落が現れるが、一貫して道は狭い。

荒川本流の最上流部にある二瀬ダム。
鹿取茂雄
酷い道や廃れた場所に魅力を感じ、週末になると全国の酷道や廃墟を旅している。2000年にWEBサイト「TEAM 酷道」をスタート。新著『酷道大百科』(実業之日本社)発売中!
http://teamkokudo.org/