【vol.76】にわとりのいる暮らし No.55

Vol76 Niwatori 3

春、二羽のチャボの母さんが張り切って十個ずつ卵を抱えこんだのを放っておいたら、ナント一五羽のヒナが孵った。走り回るヒヨコはもう誰が誰だか判らない。鶏を見分ける名人・シュウもさすがに名前をつけるのをあきらめた。

暑い夏がやって来た頃、お正月生まれのコサムが雄叫びの練習を始めた。オスの鳴き声は近所迷惑になるので複数羽飼うわけにはいかず、新たなオスはシメて殺すという暗黙の約束があった。私は苦し紛れに、コサムとチビオス三羽を夏休みに小蕗で開催される山の学校で、チキンカレーにして食べるという恐ろしい計画を立てた。

友人が車で迎えに来てチャボを小蕗に運んでくれた。小蕗に到着したチャボたちは、箱から出すとあっという間に野原に飛び去ってしまった。そうこうしているうちに、都会から十人の小学生がやって来て、木の上にチャボを見つけて大コーフンしている。

次の日、地元の猟師さんが害獣駆除で仕留めた鹿を分けてくださった。夏場は腐敗が進みやすいため、一頭分の肉を大人のスタッフを含めた総勢二一人でどんどん食べなければならない。夕飯は鹿カレーと焼き肉に決まって、もはやチャボを食べる必要はなくなった。「飽食・山の学校」とブンショウは苦笑いした。

夏が終わってからもチビオスは縁の下を住処とし、虫や畑の菜っ葉を食べ、人がいる時は土間や座敷に上がり込んできて、何かめぼしいものはないかと歩き回った。

兄弟で必死に生きたチャボたちだったが、人間が留守にしている間にイタチやキツネ、鷹などの天敵に次々に襲われてあっけなく消えてしまった。人間の勝手な都合でサバイバルを強いてしまったことを思い出すと今も胸が痛い。弱肉強食の厳しい世界がそこにあった。

Vol76 Niwatori 1
Vol76 Niwatori 2

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ オヤブンと北海道・大雪を1週間歩きました。疲れました。
「ヤマト」 ♀ ナツが留守だとホッとします。
「チャボたち」 現在、総勢14羽でエサと寝床の奪い合い。

服部家の人々
「ブンショウ」 猟期が始まりました。膝が痛い。
「コユキ」 個展でのたくさんの出会いに感謝です。
「シュウ」 そろそろ駅伝に向けて走らなれば。
「ショウタロウ」 ボルダリングにゴルフ、遊びのために働いています。
「ゲンジロウ」 自転車で琵琶湖を1周、最高でした。

服部小雪

イラストレーター。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。インスタグラムを始めました。
yamatonatsu1109