天然素材の特性を巧みに利用した独力で生み出せる採集道具の究極形 竹竿

Sao Main

釣りの起源は約4万年前の旧石器時代まで遡ることができ、日本でも石器時代の遺跡から骨角器の釣針が見つかっている。人間個人の力だけで作り出せるシンプルな道具“竿”こそ、我々の原始力を高めるマスターピースだろう。特に、日本独自の製法で生み出される和竿は天然素材“竹”の特性を生かした採集道具の究極形とも言える。ここではその作り方を学び、実践投入して獲物を食う、最高の原始遊戯を提案したい。

「1.2メートル 二本継ぎ小物竿」

握りやすいグリップ付き
携帯性に優れた1本コンパクトな作りで携帯性に優れた二本継ぎの竹竿。穂先には粘りの強い布袋竹を、手元には反発力の強い矢竹を使用している。対象魚はフナやタナゴ、ハゼ、手長エビなど。

「1.55メートル 二本継ぎ小物竿」

布袋竹特有のしなりで絶妙な釣り味を感じる
肉厚で硬く粘り強い布袋竹を手元と穂先に用いた1本。布袋竹の特徴である詰まった節を握り部分に用いた美しい造形も魅力。対象魚はフナやタナゴ、ハゼ、手長エビなど。

竹延べ竿の特徴

先端には道糸を繋ぐためのリリアンがついている。リールやガイドがなく、リリアンに糸を繋げるだけのシンプルな構造なので、トラブルも少ない。

延べ竿の理想形は継のない一本ものの竿だが、携帯性を考慮して2本継としている。竹は内側が空洞になっているので、軽量な竿が出来上がる。

本来の竹のしなりを発揮しつつ強度を生かすために、継ぐ際には竿の節にある竹の目の方向が互い違いになるようにすると良い。

川口和竿の職人に伝わる伝統製法
竹竿の作り方

良質の布袋竹が多く自生していたことと、江戸に近いという立地から、1780年代から竹釣竿の生産が盛んに行われていた埼玉県川口市。今では国の伝統工芸品に指定されている竹釣竿だが、その伝統を守り続けている山野和竿店を訪ねて、初心者でも挑戦できる竹釣竿の作り方を教わった。

山野和竿店(竿昭作)

住所:埼玉県川口市上青木3-17-27
電話:048-265-7177
営業時間:10時~18時(来店の際は電話にてご確認ください)
定休日:不定休
http://saosyosaku.com/

山野正幸

1957年に創業した川口釣竿竿昭作の二代目。良質の素材を使用して1本1本丁寧に作られた山野氏の竿はファンも多い。川口和竿の魅力を多くの人に伝えるべく、親子を対象とした竹釣竿教室や海外見本市への出展など積極的に行っている。

手順1 竹の伐採・乾燥(枝さらい)

作りたい竿の長さや太さに合った竹を採取して枝を払う。布袋竹は油が多いので採取後に油抜きを行う。矢竹の場合は、皮が付いているので皮をむいて、みがきをかける。みがきはもみ殻とクレンザーと水を混合したものを布につけてこする。

根元の節間が詰まっている部分を持ち手にしても良い。採取する前に、穂先が折れていないかしっかり確認する。

枝を払う際には、枝の目が丸く残るぐらいにしてえぐり取りすぎないように気をつける。特に穂先は傷がつくと強度が落ちるので注意。

布袋竹の場合は油抜きが必要。炭火やコンロで焦がさないように回しながら炙る。表面の色が白っぽく変わり油が浮いてくるので、布で拭き取りながら全体を油抜きする。


手順2 切り組み

竹は1ヶ月以上天日干しする。その後、切り組みの作業に入る。長さや太さの組み合わせや、竹の種類の組み合わせによって作りたい竿になるようバランスを取る。布袋竹は粘りの強さ、矢竹は反発の強さが特徴だ。

竹の成長年数によって用いる竿の部位も異なる。一年竹、二年竹は軽いので山女魚竿などの継竿、三年以上の古竹は厚みが増して強いのでへら鮒竿、海竿などに使用。


手順3 寸法切り

切り組みで組み合わせる竹が決まったら、出来上がりの長さを考慮しつつ、穂先側と手元側を同じくらいの長さになるように切り落とす。この時、互いの継ぐ部分の口の太さを揃える。太い場合はヤスリで削って調整しても良い。

1枚目/切断する場所が決まったら、竹をしっかりと抑えて、切り口が曲がらないように一気に切り落とす。

2枚目/継ぐ部分の太さを揃えながら長さを調節するのは難しい作業なので慎重に。穂先側と手元側がまだ曲がっているがこの後の工程でまっすぐに直していく。


 

手順4 下火入れ

自然に生えている竹は多少の曲がりが生じる。これを専用のコンロ(炎が直接当たらない網付きのもの)や炭火で炙って、真っ直ぐにする作業。手順1の油抜きの時のように、竹を回しながら焦がさない程度に均等に熱を加え、少しずつ直していく。

火入れをした部分は熱いうちは柔らかくなるので、冷める前にタメ木を当てて曲がりを修正する。特に穂先は焦げやすく、折れやすいので慎重に。タメ木は竹の太さに応じて使い分け、竹が真っ直ぐになっているかすべての方向から確認する。

写真の右が下火入れ前、左が下火入れ済み。歪みが取れているのがわかる。曲がりを直すだけではなく、火で炙ることで強度を高める意味もある。


 

手順5 コミケズリ

すげ口部分に糸を巻く際に滑らないようにやすりをかける。若干根元の方が太くなっているので太さが均一になるように削っていく。コミケズリが終わったら全体のやすりがけも行う。

差し込む部分をイメージする。すげ込み部分が7cmで、その長さより長めに糸を巻くので、今回は10cmやすりをかけた。

汚れ取りと染料のノリを良くするため、紙やすりを用いて竹全体をみがく。穂先は下から上へ一方向にやすりがけすること。反対にすると折れてしまう。

番外編 握り作成

握りの本体には新聞紙を使う。新聞紙が巻けたら紙やすりで形を整えてウレタンを塗り、乾いたら上から糸を巻く。糸は手順6の糸巻きの工程で行うように隙間のなく巻く。

新聞紙を広げて短い方の辺が上底と下底になるように、上底2cm、下底10cmの台形を4枚作る。4枚を1cm間隔でずらして重ね、ボンドで留める。

手元側の握り部分が上になるように持ち、台形の斜めの辺を手前にし、下底10cmを握り部分にあてボンドで竿に付け、引っ張りながら巻き付けていく。力を均等に入れ、ゆるみなく巻いていき、巻き終わりはボンドで留める。

新聞紙が巻けたらウレタンを塗る。この後糸巻きをする際に乾かないままで巻くと外れてしまうので、ウレタンを塗ったらしっかりと乾かすこと。


 

手順6 糸巻き

すげ口部分の保護のために糸を巻く工程。基本的に和竿はシルク糸を使うが、今回は扱いやすいナイロン糸を用いた。穂先には先を固結びしたリリアンをかぶせて糸巻きして固定。ウレタン(二液性の透明タイプ)を刷毛で塗って糸止めをする。

隙間なく丁寧に巻くことで竿の仕上がりも美しくなる。巻き終わりの処理は、初心者の場合アロンアルファを用いても良い。

巻き付けている部分に対して90度になるように引っ張りながら、できるだけ隙間を空けないように下から巻いていく。強く引っ張りすぎて糸が切れたり、穂先が折れたりしないように注意。


手順7 節抜き

すげ口(差し込まれる部分)に、すげ込み(差し込む部分)がぴったりとはまるように、すげ口を抜き、穴の大きさを合わせる。ここで穴を広げすぎると継ぎ具合にガタつきが生じるので注意したい。

何段階もの太さが揃う専用の柳葉キリから、竹の太さに合ったサイズを選んで抜いていく。少しずつサイズを上げ、理想の太さに近づけていく。家庭で行う際には、キリや丸ヤスリで代用できる。


 

手順8 仕上げタメ

継いでみると曲がっているところが出てくるので、再度火入れをして最終仕上げをする。この工程も焦げないように丁寧に行うこと。弱い熱で熱して、タメ木を用いて真っ直ぐにしていく。穂先の方は優しく扱うこと。

穂先や持ち手、横など様々な角度から竿をチェックして、どの角度からも曲がっている部分がないように調整していく。満足できる状態になるまで辛抱強く続けよう。


手順9 胴うるし(ウレタン)

竿全体に塗料を塗る。和竿は漆を用いることが多いが、今回はすげ口や持ち手と同様に扱いやすく乾きやすいウレタンを使用する。すでに全体を紙やすりで磨いてあるので、塗料がのりやすい。

全体にウレタンを塗るので、刷毛で塗ると塗りムラができやすい。糸くずの出にくい布にウレタンを含ませて、竿を拭くように塗ればムラなく美しくできあがる。


 

竹を調達して自作する時は

自作する場合、油抜きや火入れの際に使うコンロの代用として、炭火やガスコンロを使用すると良い。炭火は遠赤外線によって竹の内部にまで熱が伝わるので、火入れの熱源として適している。炭火やガスコンロを使用する際には下写真のような器具を使用するが、植木鉢でも代用できる。

1枚目/フィールドで採取してそのまま竿として使用する場合、穂先にリリアンが付いていなくても、竹の節を利用すれば釣り糸を引っ掛けて固定することができる。

2枚目/火入れの際に使う道具。コンロの上にかぶせれば、竹に直接火が当たらず熱だけが伝わる。自作する場合は植木鉢で代用できる。

今回製作した竹竿を用いた小物釣りの実践編はこちら。

シンプルな道具と技法でたんぱく質を得る 延べ竿マスター