【vol.28】森の貴重なタンパク源採集

Ph 10 0448

「食材性昆虫」とは、〝材を食べる昆虫〟という意味の学術用語だが、この企画では「重要な食材」としての昆虫も意味するのだ! 朽ち木の中に生息する食材性昆虫は、積雪期も含め一年中入手可能だ。山で遭難したら、これら食材性昆虫は延命のための重要な食料となるはず!
監修/藤田道男 写真/亀田正人

ナチュラリスト
藤田道男(野生児ミッチー)

生物分類技能検定(昆虫類)1級の資格を持つ、環境省の官僚。材割りでオオクワガタを採集したり、沖縄・奄美でハブがうようよいる真夜中のジャングルを単独で徘徊してマルバネクワガタを採集していたという、筋金入りの野生児だ。

サバイバル愛好家
カメ五郎

“森のタンパク源採集”といえば、本誌お馴染みのカメ五郎。ただ、かつてクワガタの幼虫を食べた際に、苦いおが屑のような味でどうしても口に合わなかったという経験がある。それ以来トラウマになり食べていないそうだ。

今回の採集道具

ハンドアックス、滑り止め付き軍手、ルアーケースは必須。アックスはナタでもOK。ミッチーがカメ五郎に貸したオノは、今は絶版となっているクワガタ採集専用オノ「無限大」だ。

ミッチー流“クワガタ材割り採集”のポイント

●材割りは幼虫の生息の場である朽ち木を破壊して採集する行為であり、過度の採集は現地の生態系に影響を与える。材をしっかり見極め、必要最小限の材割りを心掛けよう。

●割った材は見えるところに放置しない、生木は傷つけない。マナーの悪い一部採集者の行為で、材割り採集が禁止になった場所もあるのだ。

●採集した幼虫はきちんと持ち帰って飼育・羽化させて標本にするか、死ぬまで飼うこと。遺伝子汚染を引き起こすため、採集地以外の山に放すことは厳禁。

●オノでケガをしたり、朽ち木の破片が目に入ったりする可能性があるため気を付ける。朽ち木内のクワガタは逃げないので、丁寧に材を削っていこう。

食材性昆虫を求め野生児2人がブナ林へ

 食材性昆虫を求めて、ミッチーの案内で標高約1100mのブナ林に入山する。ミッチーが拾った腕の太さくらいのブナの枯れ枝に、「(・)」という4〜mmほどの大きさのマークが沢山付いていた。こうした材を幾つか手でほぐしてみると、体長わずか1mmほどのホソツヤルリクワガタの成虫が出てきた。ルリクワガタ属のメスは、朽ち木の表面に小さな穴を掘ってそこに産卵し、その後、周囲を囲うように( )というマークを付けるので、(・)という形になるのだという。ホソツヤルリを見たカメ五郎は「クワガタだと言われないと、ゴミムシにしか見えませんね」と発言。しかし、メタリックに輝くこの小さいクワガタは、マニア垂涎のクワガタなのだとミッチーが説明する。

 そうこうしていると、ブナの太い倒木を発見。カメ五郎が表面を見てみると、(・)マークが沢山発見できた。それに交じって、直径1㎝ほどの「丸の中に点」のマークもある。こちらは、コクワガタの産卵痕だ。

 「ルリクワガタのような小さな幼虫を探す際には、見落とさないよう、少しずつ削りながら食痕を探して下さい。スジクワガタやコクワガタのような大きめの幼虫を探す際は、材を大きめに割ってから、太い食痕をたどると楽です」というミッチーのアドバイスのもと、カメ五郎がさっそく材に小さくオノを入れてみると、トウカイコルリクワガタの幼虫が沢山出てきた。

 カメ五郎が他の材を見つけ、大きめに割って太い食痕を確認。食痕に沿ってどんどん割り進むと、今度はスジクワガタの幼虫が出てきた。

 そのころ、別の朽ち木にアタックしていたミッチーは、スジクワガタのオス・メス成虫をゲットしていた。加えて、コクワガタの幼虫も採集。さらには、オオトラフコガネの幼虫と前蛹(蛹になる前の、シワシワの幼虫)も採集できた。

 さらに材を割っていくと、ゴミムシダマシ類も発見。エグリゴミムシダマシの成虫をミッチーがモミモミしながら、その臭いをかがせてくれたが、クサい…。キノン類という忌避物質の臭いだという。そして、同じゴミムシダマシ科の幼虫と、〝キマワリ亜科の一種〟の蛹も採集できた。

野生児ミッチーとカメ五郎、2大野生児が夢の競演!?

産卵痕の見つけ方を伝授!

ミッチーがカメ五郎に、朽ち木の表面にあるクワガタの産卵痕の見付け方を伝授していた。「“水分調節”や“他のメスに対し、産卵済みであることを知らせる”等の仮説があるが、産卵痕を付ける理由は未解明だ」とミッチーが説明する。

自然の造形“産卵痕”

この場所には3種類のルリクワガタ属が生息しており、太いブナの立ち枯れはルリクワガタ、倒木はトウカイコルリ、細めで乾き気味の枝はホソツヤルリの産卵痕と概ね判断できる。コクワガタの産卵痕は、周囲のマルが綺麗に閉じないことも多く、見付けるにはある程度の経験が必要。

ルリクワガタ属の産卵痕

コクワガタの産卵痕

食材性昆虫の探し方

ルリクワガタ属のような小型のクワガタを探す場合には、表面を少しずつ削ったり、手で細かくほぐしながら、丁寧に探していく。スジクワガタやコクワガタのような大きめの幼虫を探す際は、材をザクッと大きめに割ってから、太い食痕をたどると楽に探せる。

幼虫や食痕を見つけ出せ!

湿ったブナの倒木を削ると、スジクワガタの幼虫が朽ち木から顔を出した。小枝を噛ませて引っ張り出すことで、幼虫を傷つけることなく取り出せる(1枚目)。金魚の糞のような粒々の木くずは、ホソツヤルリの糞(食痕)だ(2枚目)。

ミッチー&カメ五郎の採集結果

クワガタ幼虫の同定

コクワ(左)とスジクワ(右)。幼虫の同定は、材の種類・状態、気門の形状、頭部の色等から総合的に判断する(一部容易な種もあるが、かなりの経験が必要)。

クワガタムシ科とコガネムシ科幼虫の見分け方

左がコガネムシ科(オオトラフコガネ)、右がクワガタムシ科(コクワガタ)。幼虫の見分け方は、腹部先端(お尻)に尻ダコがあるのがクワガタムシ科、ないのがコガネムシ科だ。

エグリゴミムシダマシ

朽ち木にいる普通種。ペットの餌として販売されているミールワームも、本種と同じゴミムシダマシ科の昆虫である。ゴミムシダマシ科は種類が多く、形態も様々だが、同じようなクサい臭いがする。

スジクワガタ(左:メス/右:オス)

コクワガタに似ているが、上翅にスジがあるのが特徴。写真のオスは非常に小さく、大アゴの内歯がほとんど消失しているが、大型のオスでは内歯が2歯状になり非常にカッコイイ。

ホソツヤルリクワガタ(左:メス/右:オス)

(・)マークの張本人。国内のルリクワガタ属は、かつて同一種であったと思われていたものがどんどん別種に分けられて新種として報告されており、まだまだ未知のクワガタだ。

森の貴重なタンパク源を味わい尽くせ!

 ニンニクとバターを使い、焚火でクワガタ幼虫たちの調理を開始。カメ五郎がモミジガサという植物を採取したので、これもメニューに加えることにした。ベア・グリルスの「こいつは貴重なタンパク源です。オエッ」という決め台詞が頭をよぎる(笑)が、果たしてお味は?

 カメ五郎は、かつてコクワガタの幼虫を食べたところ、美味しくなかったとのこと。しかし、今回スジクワガタの幼虫を食べてみたら、朽ち木の臭いがするが、クリーミーでまぁまぁイケるという感想だった。数日放置して木くずを糞として排出させた方がよいのではないかとのこと。

 ミッチーは子供のころ、ファーブル昆虫記でバッタのモモの生肉はエビの味がするという話を読んで、よく食べていたという。また、カミキリムシの幼虫を焚火であぶって食べたことがあるというが、クワガタムシは初体験。しかし彼はまったく躊躇することなく、クワガタの幼虫をパクパクほおばる。頭部(オレンジ色の部分)がサクッとしてエビのようだが、やはり朽ち木の臭いが気になるという。

 続けて、キマワリ亜科の蛹とゴミムシダマシ科の幼虫を同じように炒めてみる。先程のエグリゴミムシダマシのキノン臭が記憶にあり、美味しいのか疑問だったが、幼虫はいわゆるミールワームであり、日本でも「九龍虫」の名で生きた幼虫をお酒に入れて飲むことが流行したことがあるという。そこで、せっかくなのでチャレンジしてみた。

 幼虫は、中身が溶けだしたのか空洞になっていたが、エビのようにサクサクして美味しいと絶賛。そして、キマワリの蛹をカメ五郎とミッチーがほおばると… 二人とも「うまい!」と絶賛。クリーミーで美味しいらしい。成虫が臭くて期待していなかったゴミムシダマシ類の方が、実は美味しかったというオチだった(笑)。今度は、クワガタも蛹を食べてみるといいのかもしれないという結論に至った。

 野生食材をほおばりながら、カメ五郎とミッチーが言っていたのは「生き物を捕まえるという行為が一番好き」ということ。野外で、自分の力で生物を捕獲するという行為が大好きな、ベア・グリルス顔負けの筋金入りな野生児二人であった。

焚火でワイルドに調理!

焚火を熾し、ニンニクバターで炒めてみる。加熱すれば大抵の昆虫は食べられるが、加熱で無毒化しない毒もあるため気を付けよう。ここで紹介したクワガタ、コガネムシ、カミキリ、ゴミムシダマシは 大丈夫そうだ(笑)。

カメ五郎、トラウマ克服か?

かつて食べたコクワガタのトラウマを引きずっていたカメ五郎だったが、スジクワガタの幼虫をほうばったところ、思ったよりはイケるという反応だ。

クワガタの幼虫に初チャレンジ!

野生児ミッチーは躊躇することなく、コクワガタの幼虫を味わう。頭部がサクッとしてエビのようで、クリーミーではあるが、朽ち木の臭いもするという。

ゴミムシダマシ科の幼虫と蛹にもチャレンジ!

ニンニクとバターを追加し、ミッチーがゴミムシダマシ科の幼虫と蛹も焼き始める。臭くないのだろうか……と、編集部はちょっと不安になったが、ミッチーとカメ五郎は楽しそうだ(笑)

小池栄子には、負けないぞっ!

編集部ツジも、クワガタ幼虫にチャレンジ! TV番組で、服部文祥から渡されたカミキリムシの幼虫を生で食べていた小池栄子に負けず、ツジちゃんも体張ってます!