【vol.28】今こそ人間の創造力を取り戻すキャンプを! クラフト野営術

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見過ごしていた自然の落とし物がここまで実用的に生まれ変わる技法

自然界に落ちている物を調達して、それを一際美しい実用品に変えてしまう男がいる。絵本作家であり、多くの雑誌イラストを手がけるスズキサトル。彼のブッシュクラフトスタイルには小難しい思想などなく、ただ純粋に自然を見つめ、物を生み出す楽しさが溢れている。太古の人々もまた、ただただ生活に必要な道具を、元来人間に備わっているはずの“発想する楽しさ”をもって作っていたに違いない。これがブッシュクラフトの正しい楽しみ方である。
文・イラスト/スズキサトル 写真/降旗俊明

Suzuki Satoru

ブッシュクラフトワークを専門とするアウトドア系イラストレーター。長野県松本在住。イタリアボローニャ国際絵本原画展2011・12・13年度入選。最近はイラストの他に地元信州松本から発信する新しいウッドファニチャーブランド・ピッキオワークスのデザインも手がける。

「絵描きゴトキャンプゴト。」→ http://sotoekaki.blog133.fc2.com

ⒸSuzuki Satoru Yanagisawa mokko

ボクにとって野営は絵を描くコトと同じ

 ブッシュクラフトとは? その辺はあまり深く考えなくてもいいと思う。強いて言雨なら登山のロープワークのような、ひとつの技術のような感じで考えている。野外のちょっとした場面で役に立つ、誰もが楽しく学べる“野外の生活術”くらいのほうが親しみやすいだろう。

 そもそも、ボクは最初からブッシュクラフトワークをマスターしてやろうと思ったわけではない。絵を描くことの延長で、野外で動植物の絵を描いたり、自然を観察したりして、そのうち日帰りでは足りなくなって山で野営するようになった。すると今度は漆黒の森の中、焚火の炎を見ながら昔の人はどう火を熾していたのか? 宿場が無い時代はどう旅の山中で野営をしていたのか? 雨や雪の日はどう凌いだのか? というようなことを考え始めたのだ。それを追求していくうちに、気付けば現在のスタイルに近づいていた。なので、今は日本古来の技術や道具を取り入れた「和式ブッシュクラフトワーク」が中心だ。

 例えばボクが写真の中で被っている飛騨高山の総一位笠も、軽量で快適なうえ帽子では得られない安心感がある。実は今回の野営中にも偶然太い木の枝が頭に落ちてきたのだが、笠の三角型がクッションとなって頭への衝撃を未然に防いでくれたのだ。よく厄除の笠とも言われるが、これも「最新の物が最善とは限らない」という言葉が当て嵌る、日本古来の優れた山道具と言っていい。

手作りの物を使うということ

自ら作った道具を使うことで、他の道具の良し悪しが見え、道具を選ぶ目が養われる。そして自分に必要ない装備を選ばなくなる。

ハンギングフライの張り方

ボクが考案した吊り下げ型のタープの張り方。特徴はサイドが屋根状になっているので、雨が降ると四隅へと自然に流れ落ちる。最初は木の間にガッチリ挟み込むのが難しければロープでもいい。以前、野営で梁のロープを忘れてしまい苦肉の策で思い付いた。アイデアはいつも机の上より現場で困った時に閃く。使用しているタープはDDスーパーライトタープ(3×2.9m)。中央の3つのループがポイントだ。

STEP.01 2本の木に枝をかけて梁をつくる

木の幅は3×3mのタープだと4m幅くらがちょうど良い。梁の木は、生木より倒木のような乾燥した木の方が固定しやすい。

STEP.02 枝にタープを吊るす

木にタープを吊るす際は巻き止め(ノーノット)で結ぶ。ロープの場合はプルージックかフレンチノットがいいだろう。

STEP.03 ロープを4隅に仮留め

次にタープのロープを仮留めする。その際、ロープの自在は中央辺りにしてペグを打ったときに調節がしやすい。正面入り口に枝を追加してやると出入りが楽になる。

STEP.04 位置を決めたらペグを打つ

自在を調節しながらテンションをかけて美しくタープが張れたところで、ペグを深く打ち付けて固定。樹林帯の地面は雨が降ると普通のペグは直ぐ抜けるのでボクはいつも現地で作った木のペグを使う。

人が刃物を使うということ

昔は野外で生活するにも、何だって刃物を使わなければ生きていけなかった。でも現代では、普段の生活に斧やナイフのような刃物がなくても不便はない。みんな忘れているだけだ。どんなに優れた道具でも、使う側が使い方を分からなければ、いざと言う時に何の役にも立たないのだ。

(写真右端から順に)

みかじきや プラントハンターミニ
とても軽量コンパクトで切れ味が大変よく使いやすい。また刃を折り畳んだ状態で角が出ないのもポイント。

電工ナイフ+火打金(SK材・日本鋼)
一番のポイントは無加工で火打金として使用できること。安価なので手に入りやすいく自分で好きなカスタムが出来るのもいい。

GM ティンバーウルフ ブッシュクラフトナイフ(カーリーバーチ)
スカンジグラインドでハンドルが太く、ブッシュクラフトに大変向いている。クラフトナイフは鋼材や刃の形状よりもハンドルと使い手の技量が重要だと教えられたボクの基準にもなったナイフ。

ESEE イズーラ(ダマスカス)
基本がサバイバルナイフなので強度を上げるため刃のエッジ角がやや鈍く作られている。ボクは写真のようにエッジをかなり切り上げて、刃先をコンベックスにして鋭く切れるナイフに仕上げた。フラットで薄いイメージだが、刃厚が4mmもあるのでバトニングも難なくこなす。

ESEE カンディル(コンベックにカスタム)
野営の際はサブナイフとして食材カット用に使う。こちらもエッジ角を切り上げてコンベックスにカスタム。サブながらバトニングまでこなす。

ファルクニーベン D3T(ダイヤモンドシャープナー /裏面革砥にカスタム)&
ファルクニーベン CC4(セラミックシャープナー)
スカンジグラインドでハンドルが太く、ブッシュクラフトに大変向いている。クラフトナイフは鋼材や刃の形状よりもハンドルと使い手の技量が重要だと教えられたボクの基準にもなったナイフ。

ブッシュクラフターの野営装備一覧

自作する人間の装備は面白い。良いものがないから自分で作ったもの。これ以上手を加えなくても良いくらいお気に入りの製品。今まで削ってきた装備は数知れないが、今の装備だって今後どうなるのかわからない。ある日思いついた物が、今の装備を凌駕してしまうかもわからない。

※装備は全て作家個人の仕様。独自のアレンジや自作の道具類のほか、国内外の製品や既に販売が終了している物も一部含まれております。

[1]トイレットペーパー
野営ではあると無いとで大違い。クッカーの油を拭き取るなど様々な場面で使う。濡れて困る物は全てジップロックに入れていく。

[2]フライベーカー(クッカー)
深さがあるのでパンも焼けるし米も炊ける優れものフライパン。アルミ製。バックソーの刃は中に丸めて収納。中には、葡萄杢のククサとスポーク(共に自作)、バーコ510弓鋸刃(生木用・乾燥木用)、MSRライトリフター(ハンドルレザー部自作)を収納。

[3]V字グリル(自作)
1人の場合は2本、2人以上の時は4本持って行く。ザックへの収納は斧と反対側のほうへ仕込むとフレーム的にバランスが丁度いい。作り方は「ブッシュクラフト的野外制作術」の章で後述。

[4]調味料類
調味料類はナルゲンのミニボトルに収納。塩だけは岩塩のまま持って行き、現地でナイフで削る。容器要らず。

[5]ナルゲンフォールディングカンティーン3L(野営時)
野営地で使う水筒。登山メインの場合はこれが1.5Lに変わる。上流に家畜がいそうな場所は+浄水器。

[6]食料袋
米や小麦粉などをまとめて入れておく。グラナイトギア エアジップツイスト5L

[7]まな板
朴の木の軽量薄型まな板。1cm単位の埋木の目盛り付き。ザックの背面パッドや火熾しの際の団扇にも使える。朴はナイフが当たっても柔らかく粘りがある材なので刃を痛めない。文祥さんのベニヤのまな板にインスパイアされた。
ピッキオワークス マグノリア(ホウ材)

[8]木製カトラリー
収納しやすいようにフラットでシンプルなモノがいい。登山の場合はスポークのみを持っていく。
ピッキオワークス ツリースポーク(ミネバリ材)
ピッキオワークス パドルターナー(ミネバリ材)
ピッキオワークス ラウンドレードル(ミズメ材)

[9]焚き付け用火口
樺の皮・麻ひも・マッチ(予備)

[10]火口用火種袋(自作)
自分で鞣したハクビシンの革袋。中には火口茸・火縄・火打石が入っている。

[11]蜜蝋のランタン(自作)
夜、焚火以外の唯一の明かり。ヘッドライトも持参するが壊れたりすることは無いしこれで充分。芯は3本で明るい。スプーンナイフで木の枝を刳り貫いて蜜蝋を流し込む。

[12]ブッシュボックスチタニウムアウトドアポケットストーブ
チタン製の小型軽量焚火台。直火ができない、または汚したく無い場所で使う。登山ではアルコールストーブの風防+ゴトクにもなる。畳むとハガキ程度の大きさになる。カマドが小さいので薪を安定的に燃やすにはコツが必要。

[13]ポット・マグ
ポットは湯を沸かすのがメインなので全てチタン製。自作のアルコールバーナーとコーヒードリッパーが丁度中に収まる。ドリッパーはアルコールの空容器を切っただけのモノ。広口のボトルと相性がいい。エスビット750ml チタニウムポット
EPI シングルチタンマグ

[14]SOTO エアロマグ120ml
山歩きの際、ザックから直ぐ取り出せるところにしまって、湧き水を飲む時によく使う。チタンの中空二重構造なので保温保冷に優れ野外でパンを作るためのイースト菌を発酵させるのにも使う。

 

[15]総一位笠
常に頭に日陰を被っているような感覚。軽く、夏は風が通り抜け雨が降ればイチイの材が水分を吸い膨張して網の目を塞ぎ防水になる。一位の笠は古来より厄除の意味もある。ボクがいつも思う「最新の物が最善とは限らない」と言う言葉が見事に当てはまる一品。
塚本屋 飛騨総一位深笠7寸

 

[16]檜の枝の歯ブラシ
檜は殺菌効果もあり磨くと口の中がさっぱりする。作り方は枝を手で折って先を斧の頭や石で叩いて繊維をほぐし、奥歯で噛んで先をブラシ状にする。

 

[17]革手袋
刃物を扱うので手首までカバーしてるもの。カイマングローブ 多目的ワークグローブ

[18]レインウェア(上下)
野営がメインの場合、雨具は藪漕ぎや火の粉で穴が空いてしまうことがよくある。消耗品なのであまり高価じゃないほうがいい。あと、パンツは黒が多いのは何とかならないかといつも思う。スズメバチの攻撃対象となりやすいので避けたい。
ピーターストーム アグール アノラックM(オリーブ)
ピーターストーム パッカブル パンツS(オリーブ)

[19]ナイフ入れの袋
行動中はナイフ類はケースに入れてザックにしまう。グラナイトギア バックポケットL

[20]ロープ(φ7mm×20m
木にタープを張る際の梁を作るためやごぼうで降りられる程度の使用範囲で使う。

[21]作業用ベルト
ナイフやツール類を付ける際に必要。これによって腰回りの装備を簡単に取り外しできる。

[22]細引き用ロープ袋+カラビナ
タープに必要な細引きやカラビナが入っている。
エアジップサックS

[23] ナルゲンボトル広口(行動時)
水は重いので何リットルも持って背負っていると余計に汗をかいて喉が渇く。浄水器があれば沢から水が汲めるので500ml程度あれば丁度いい。

[24]GM ティンバーウルフ&
ブッシュクラフトナイフ(野営用ナイフ)
メインナイフ。かれこれ5年以上愛用している。
ESEE カンディル(サブナイフ )
ファルクニーベン D3T & CC4(シャープナー)

 

[25]火打金(電工ナイフ)
ホームセンターでもよく売っている電工ナイフは実は火打金にもなる。鋼材は日本鋼のモノがいい。

[26]ESEE イズーラ(登山用ナイフ)
薄型で嵩張らないので行動時はザックのショルダーストラップのベルトに付けている。メインナイフを持って行く際は持って行かない。

[27]プラントハンターミニ折込鋸
超小型の折込鋸。細かい工作に大変向いている。切り口が大変綺麗なので、樹木の自己治癒能力でもあるカルス形成が可能な切り方ができる。

[28]バーゴン&ボール折込鋸
折込時に角が出ないのがポイント。オレンジの色は野外で落としても認識性が高い。鋸は切れるスピードが多少遅くても枝を綺麗に切れる鋸のほうが、切った後の木にはやさしいと思う。

[29]グレンスフォシュスカンジナビアンフォレスト
中型の両手斧。片手斧には無理な太い薪もこれで真っ二つ。野営用で普段の登山では重量があるので持って行かない。

[30]グラナイトギア トレイルワレットL
山財布を長財布だとこんなに使いやすいとは思わなかった。紙幣やコインの出し入れも大変スムーズ。過去の苦い経験から野外で落とさないようにコードは必ず付ける。

[31]グラナイトギア タクティカルサチェル
軽いので常につけっぱなしでいる。横長なので携帯食やコンパスや地図など、中の物が出しやすい。これを使い始めてから、ポーチを腰に付けなくなった。

[32]DDスーパーライトタープ
軽量コンパクトな様々張り方に対応出来る正方形タープ。その都度現場で新しい張り方が閃き、張り方に終わりがない…。タープのロープにはピッキオワークスオリジナルの自在「ピーナッツ(コードスライダー)」を取り付けている。

[33]タイベックシート(1×2.5m
下に敷くグランドシート。軽くて丈夫で安くて言うこと無しだが、白いので夜は虫が寄ってくる。

[34]着替え袋
基本、帰る時以外着替えない。真夏でもたまに寒いときがあるので厚手のフリースを入れてある。
グラナイトギア エアジップサックS

[35]グラナトギアクラウンVC60
軽量なのにしっかりパッドも入ってポーチや斧といった道具も外付けがしやすい。またシンプルな作りで余計なポケットもなく生地が強いのもポイント。色もブッシュクラフト的。

[36]ポーチ類
ファーストエイドやツール類を収納。ザックのウエストベルトに付ける。ダンプポーチには茸や山菜などを入れる。
タスマニアンタイガー アドミンリーダーポーチ(右)
カリマーSF ロールアップダンプポーチ(左)

[37]ビニール袋(自作ポンプ)
着替えやシュラフはこの中に全て入れておく。また、エアーマットを膨らます巨大ポンプにもなるよう、チューブをつけて少し改造。

[38]ハイカーズデポトップキルト(シュラフ化繊)
ボクが行く野営地は高山ではないので夏はこれにポーラギアのビビィでほぼ快適。と言うか過剰なくらい。

[39]ポーラギア スノーサイド ビビィ イーベント
雨でなければこれだけでいい。荷物は全て中に入れてしまう。エアーマットを中に入れてあるので座るとソファのようになり椅子要らず。収納はマットごとロールしながらタイベックシートで包み込む。ただ、普通のビビィは結露しやすいので素材がイーベントかゴアテックスでなければオススメ出来ない方法。
ニーモ アストロエアーインシュレーテッドマット

[40]サーマレスト リッジレストソーライトS
これまで軽量マットをいくつか使ってきたが結局これに戻った。例によってザックの中に丸めて収納するのだがフニャっとしないお陰でかなり強度のあるフレームザックに仕上がる。登山がメインの場合はエアーマットは持って行かない。

ブッシュクラフト的野外制作術

理想の道具が見つからないなら、最良の道具を自分で作ってみるのがブッシュクラフト。ここではこれまでスズキ氏が改良を重ねてきた定番にして最新の手作り野営道具をイラストとともに紹介しよう。

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トライアングルバックソー

太い枝も楽に切断できる薪作りに便利な鋸

弓鋸の替刃を利用して作る便利なバックソーは、ブッシュクラフト界ではとてもポピュラーな部類のクラフトワークでもある。ただ現地で作るには、少々手間が掛かり過ぎるのも否めない。そこで、極力手間を省いた、ボクが考案したオリジナルのトライアングルバックソーを紹介したい。

弓鋸の替刃は収納が問題となる。刃が鋭いので長細い袋状のような物に入れて運ぶには危険だ。そこで写真の様に刃を丸めるとクッカーの中に収納しやすい。

留める際は蝶ネジを使うと留めやすい。あとボクは乾燥木用と生木用の両方の刃を持って行く。乾燥木用だと生木は切れ難い。

作り方

使い方のポイント

弓鋸の替刃をヒートンネジで留める際、写真のようにネジの頭の輪に枝を挿して回すと奥まできっちり締まる。反対に刃を外すときも外しやすい。


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V字グリル

グリル同士が繋がってない方が持ち運びも便利。また上に置く鍋のサイズも関係ないので使い勝手もいい。三角のステンレスアングルを使う事により重ね収納が出来る。発想のきっかけはV字ペグを見たときに閃いた。

様々なクッカーサイズに柔軟に対応できる

グリルが1本ずつ独立していると、グリルの本数を調整すれば多様なクッカーのサイズや数に対応できるのも良い

 

この三角の他に丸棒や四角やパイプを試してみたが三角が上に鍋を置いた状態でも焚火の熱で変形する事もなく一番強度的に強かった。写真のように帆布で専用の袋を作ると炭で汚れたままでも収納出来るので便利だ。

作り方

使い方のポイント

このグリルを使うときは、革手袋が必須だ。ボクはいつも溶接用のカイマングローブの革手袋を使っている。


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火口茸

ツリガネタケ

古代から伝わる天然の火口

ツリガネタケを使用した天然の火口。日本では火口茸、ヨーロッパではアマドゥと言い、古代から火熾しの火種として使われてきた。火打金での火熾しは最近はこればかりを使用している。一度火がつくと風が吹いたくらいでは火が消えない。

問題はチャークロスやチャーロープ(炭化した100%の綿)と比べると10倍くらい火がつき難い。だがそこが面白い。

火口茸に火が付いたら麻縄を解した中に入れて勢いよく空気を送り込む。ここま来たら火がつくのはあっという間だ。

作り方

使い方のポイント

火口茸に火打ちから上手く火を付けるコツは、火打金よりも実は火打石にコツがある。石の角がキンキンに尖った状態でなければ、大きな火花を飛ばすことは難しい。後は練習あるのみだ。