<vol.27>日本“最怖”のハイキングコース 妙義山頂上縦走

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超こわい! 超楽しい! 日本一危険な山の稜線を“Highキング”

毎年のように重大事故が発生し“日本一危険な鎖場”として名高い妙義山の上級登山コース。本誌連載「もしもチョモランマに登れたら」のメンバーがその稜線縦走に挑戦する。

Edit/Tomotaka Yamazaki
Photo/K1、UNIT QUATTRO

日本最大奇景の名峰は鎖場好きの天国

 妙義山、いわゆる表妙義は群馬県下仁田町、富岡市、そして安中市の境界にある山で、その異様な山容は日本三大奇景のひとつとなっている。

 妙義山はいまから300万年前までの火山活動で形成されたと言われており、近くにある荒船山と同時期にできた溶岩体だ。荒船山がテーブルトップマウンテンであるのに対して、妙義山はノコギリの刃のようにギザギザ。一見すると、こんな所を縦走できるのか? と思わせる山だ。

 妙義山は、北側の白雲山と南側の金洞山そして金鶏山(登山禁止)で構成されている。それぞれの中腹に「中間道」と呼ばれる登山ルートが通っており、多くの登山者はここをハイキングで楽しむのだが、稜線には「上級ルート」と呼ばれる日本一恐いと評判の登山ルートがある。

 この上級ルートは、毎年のように重大事故が発生し、熟練した登山者でも侮れないとされているのだ。妙義山を制覇することは登山者にとって勲章であり、北アルプスのジャンダルムや大キレットに並ぶと言っても過言ではない。

 さて妙義山頂上縦走にのぞむにあたっては、それなりの装備が必要だ。低山に登るような軽装で行ってしまう人もいるし、実際は行けてしまうのだが、やはり事故を防ぐために道具の準備は重要だ。

 まず登山ヘルメットとハーネス、スリングもしくはデイジーチェーンはマスト。よく自転車用ヘルメットでもいいのか? という質問を受けるが、自転車用ヘルメットは帽体の開口部が大きく、隙間から小さな落石が入ってくるので×。

 ハーネスとスリング、デイジーチェーンは自己確保(セルフビレー)で使用する。登攀の途中で疲れてしまった時に、鎖やアンカーボルトにカラビナをかける。こうすることで安全に休憩でき、落下や滑落を防止することができる。

 靴も重要だ。多くの人はトレッキングシューズで登ると思うが、トレッキングシューズにはいくか弱点がある。まず爪先が大きいため、小さな岩のホールドを捉えづらい。また爪先のソールのフリクション(岩との摩擦力)が足りず、表面に凹凸のない岩を登りづらい。

 オススメしたいのはアプローチシューズだ。アプローチシューズはクライミングのゲレンデまでの行程を考えた靴で、岩での性能も確保している。トレッキングシューズと比較すると、安定した岩場の登り下りができるのだ。

 そして最後は手袋。岩や鎖を握ることが多いため、手の保護は大事だ。素手が一番滑らないという人もいるが、緊張で汗をかくと握った鎖が滑ってしまう場合もある。オススメなのは、掌にゴムが張ってある軍手だ。安いし、グリップ力が抜群。岩も鎖もがっちり握ることができる。

 最後に岩場を登る時の鉄則。鎖を絶対離さず、できるだけ脚で登る。これを心がければ安全が増す。

妙義山縦走に用意したいアイテム

登山用ヘルメット

妙義山は白雲山の南側の斜面など、ガレ場がかなりある。落石も珍しくなく、やはりヘルメットは必需品だ。またもしも滑落した時に頭を保護し、ダメージを少なくできる。

ゴムグリップ軍手

革手袋を選ぶ人もいるが、意外と鎖で滑る。ゴム引きの軍手が一番グリップ力が高く、安価なので交換もたやすい。グリップ力が強すぎる場合は、指先を少しカットするといい。

アプローチシューズ

岩で強力なフリクションを発揮するアプローチシューズ。クライミングシューズと異なり、登山道でも問題なく使える。ローカットが多いが、くるぶしまでのミッドタイプもある。

ハーネス&デイジーチェーン

装着しないで登る人も多いが、妙義山の岩質は意外と脆く、やはりセルフビレーをするにこしたことはない。デイジーチェーンは、輪になったPASは長さ調整が楽で強度もある。

STAGE1
白雲山

妙義山踏破においてはウォーミングアップ?!

ROUTE : 妙義神社 大の字 奥の院 見晴らし 玉石 大のぞき 天狗岩 相馬岳 バラ尾根 堀切

白雲山が踏破できなければ、金洞山はやめたほうが無難

 今回の縦走は、妙義神社から白雲山に入り、稜線伝いに金洞山へ向かい、中之岳から下山するというルートを取った。妙義神社で山行の無事を祈願し、いよいよ妙義山のサミットプッシュを開始。

 急峻な岩山だけに、下部も当然ながら急登だ。登り始めてから10分ほどで、1本目の鎖が現れた。鎖を使うまでもない岩場だが、とりあえず身体を慣らすために鎖に取り付く。そして「大の字」の鎖。登り切って、眼前に広がる西上州の絶景を楽しむ。まだ余裕だ。

 「辻」を通過するとほどなく「奥の院」が見えてくる。杉の神木がそびえ立つその横に、長い鎖が下がっている。一般的には、この鎖場が登れないようなら妙義山の縦走はやめたほうがいいと言われている。絶壁のような岩場だが、ホールドが多いため楽勝でクリア。

 続いて「見晴らし」へ向かうトラバースの鎖場をクリア。クラッグの入った一枚岩を登り切ると、いよいよ白雲山最初のハイライト「ビビリ岩」がやってくる。ビビり岩はスラブっぽい三角錐の岩場で、取り付きは左手の小さな斜面から。斜面を越えるようにして反対側の斜面に出て、メインの鎖に取り付く。ここの高度感がすごく、ビビリ岩と呼ばれたのだろう。ただ見た目ほど岩は滑らず、フリクションと脚のホールドのみで登っていける。

 見た目に驚かされたが、最初の関門をスルっとクリアできてまずはひと安心だ。ただ、経験済みのメンバーがいたから安心できたが、一人だったらかなりビビったはず。

 「玉石」から先、小さな岩場をいくつか通過し、高度感十分な絶景を楽しみながら歩く。ただ、高所恐怖症の人には地獄のようなハイキングコースに違いない。

 大のぞきからは、晴天なら浅間山など周囲の名峰を見渡すことができる。だが、この先には「滑り台」と呼ばれる難関が待っている。滑り台はスラブ状の一枚岩で、30mの壁を3本の鎖を使って一気に下りる。上から覗くと、鳩尾がスッとなるような鎖場だ。鎖を両手で握り、わずかに出ているホールドを脚で探りながら、フリクションをかけて下りていく。ただ見た目の印象と違って意外とフリクションがあるので、鎖にぶら下がる必要はない。かえって鎖に頼ると腕がバンプして、落下の危険が高いので注意だ。

 ここを通過すると相馬岳まで難関はないと思われがちだが、実は妙義山は鎖がある場所よりない場所のほうが恐い。落葉や苔などが足場を不安定にし、しかも目立ったホールドもない中で登り下りしなければならない。鎖場を通過したからと言って、油断なきよう。

Rock Point.01 大の字

危険度 | ★☆☆☆☆

まずは小手調べの鎖場。ホールドが多くあり、特に難しい場所ではない。登り切った場所の大の字からの眺望は実に素晴らしい。

Rock Point.02 奥の院

危険度 | ★★☆☆☆

奥の院という霊場の脇にある鎖場。高度があるが、落ち着いてホールドを探していけば問題ない。この鎖場が恐いようなら引き返すべきだろう。

Rock Point.03 見晴らし

危険度 | ★☆☆☆☆

見晴らし直下の鎖場。トラバース的に登っていくのだが、見た目ほどは難しくない。右側に落ちないよう、ゆっくり登っていこう。

Rock Point.04 びびり岩

危険度 | ★★☆☆☆

取り付き箇所は楽に見えるのだが、壁を越えながら崖を登っていくような感覚なので、一瞬恐怖感を感じる。また斜面が斜めになっているので滑り落ちるような錯覚もあり、この名称が付いているのだろう。

Rock Point.05 滑り台

危険度 | ★★★☆☆

上から見ると非常に滑りやすいように思えるのだが、ホールドも多く、フリクションも十分にかかる。落ち着いて1歩1歩下りていけば、意外と簡単な岩場だ。

STAGE2
金洞山

難所が次々とやって来る妙義山の核心部

ROUTE : 堀切 鷹戻し 東岳 中之岳 見晴台 中之嶽神社

 相馬岳を過ぎたら、一気に上級者コースとなる。相馬岳の下りからバラ尾根にかけてはガレ場だらけで滑落には十分に注意が必要だ。鞍部である「堀切」を過ぎると、いよいよ金洞山に入る。最難関の「鷹戻し」が近づくにつれて、いやが応にでも緊張が高まっていく。

 ハング状の鎖場、鉄梯を越えると、いよいよ鷹戻しだ。北側の斜面に雪が残っていため、それを踏んで靴が滑りやすい。鷹戻しの取り付きは、あぶみ状の鎖から始まる。ここも一見するとスラブ状になっており、これまでの岩場に比べたら確かに滑りやすい。ここでは思い切り腕の力を使いながら、一気に1段目をクリア。呼吸を整えて、さらに斜度がきつい2段目を登る。注意ポイントは登り切った所にあるトラバース。必ず鎖を握ろう。かつて死亡事故が発生した場所だ。

 鷹戻しを過ぎると、すぐに第二の最難関「2段ルンゼ」がやってくる。ここは平面でルートを考えず、右壁、左壁で自分に適したホールドを見つけることが重要だ。2段目は最初がハング状になっているが、下は意外と簡単である。

 ここを越えれば、もはや恐いものなし。下山まで気を抜かず楽しんでほしい。この山はとにかく麻薬。一度体験したら、クセになる。

Rock Point.06 鷹戻し

危険度 | ★★★★★

妙義山の中で最も難所と言われている鎖場。取り付きから一段目は左に登っていき、2段目は右へと急登のトラバース。そして最後は右へ大きくトラバースする。ここは腕の力が必要となる。最後のトラバースでは、くれぐれも鎖から手を離さず、土の部分ではなく岩の上に乗って移動しよう。

Rock Point.07 2段ルンゼ

危険度 | ★★★★☆

ここも妙義山の中で最難関と言われている鎖場だ。上から見るとホールドが見えないの恐怖を感じるが、1段目(写真左)は比較的カンタン。問題は2段目(写真右)で、始めがハングになっていて足元が見えない。ハングの上で一度しゃがむと、左下にホールドが見える。それを越えれば難易度が一気に下がる。

Rock Point.08 東岳西側下り

危険度 | ★★★☆☆

ここもスタート部分の見晴らしがすごいため、錯覚で恐怖を感じる。鎖場自体も高度があるが、二段ルンゼに比べればホールドも豊富。ここまで来ると感覚も麻痺している。

Rock Point.09 中之岳2段下り

危険度 | ★★★☆☆

ここも長い下りの鎖場だが、ホールドが多く、地形も弓なりになっているので下りやすい。1段目から2段目にトラバースする所が、滑りやすい土なので注意しよう。

【初級】 妙義山の鎖場入門編 「石門めぐり」

(写真順にカニの横ばい、第二石門、大砲岩)

妙義山初登頂でいきなり上級コース…という人もいると思うが、鎖場の経験が少ない人にはオススメできない。初中級者でも十分に鎖場を楽しめるコースが「石門巡り」だ。奇岩を巡りながら、そこにある鎖場を登っていく。カンタンな第一石門の「かにの横ばい」から始まり、第二、第三、第四石門を経て、大砲岩へと向かう。中でも大砲岩の鎖場は、上級コースを彷彿とさせるもので、かなりスリリングで楽しい。