【vol.37】第5回 伝統保存食入門

コーンビーフ

今回は缶詰で知られる食材「コーンビーフ」の作り方を紹介しよう!日本ではなぜか馬肉ミックスの缶詰で知られているが、その名の通り実は牛肉で作るのが正統派だ。是非、お試しあれ!

手作りなら様々な味付けが楽しめる

コーンビーフといえば、日本ではノザキのコーンビーフ缶を思い出す人が多いだろう。馬肉が主体なので現在はコーンミートと名称が変わっているが、裾広がりの独特の形状な缶や、缶底に付けられた金具でサイド部分を巻き取っていく方法は変わらない。プルトップ式の缶も出たようだが、あの巻き取り式の缶を開けるのが、僕は今でも大好きだ。
 
コーンビーフのコーンはトウモロコシのことだが、スコットランドでは穀類全体、または粒状のものすべてをコーンと呼ぶことがあり、また動名詞のコーンドは岩塩を砕いた粒状の粗塩で肉を漬けることを意味している。イギリスのジンにビーフィーター(ビーフ・イーター「牛を喰う人」)という酒があるくらいで、イギリスで肉といえば牛肉であり、コーンビーフはイギリスの伝統保存食のひとつだ。
 
コーンビーフの作り方にも色々ある。基本的には塩漬けなのだが、野菜と一緒に濃い食塩水に漬け込む方法や、日本では漬け汁に醤油味を付けるものなどもある。しかし、今回行なっているのは最もシンプルかつ古式である乾塩法、つまり塩をすり込むという方法である。イギリスに行った際、田舎のおばあちゃんに教えてもらった方法だ。彼女はファスナー付きのポリ袋などではなく、使い込まれたホーローのバットを使っていたけれど。

【材料】牛赤身塊肉(モモ肉など)、塩、ハーブミックス(ローズマリー、バジル、オレガノ、フェンネル、タイムなど)、ローレルの葉、ブラックペッパー

【作り方】
❶塊肉は脂身を切り落とし、3~4cmの厚さに切り、塩がしみ込みやすいように、フォークで裏表まんべんなく穴を開けておく。
❷塩とハーブミックスを全体にたっぷりすり込む。
❸ローレルの葉を肉の表裏に貼り付け、ファスナー付きポリ袋に入れて冷蔵庫で1週間~10日保管する。
❹途中、2~3日ごとに塩とハーブミックスを取り替える。肉汁(血)はこまめに捨てる。
❺漬け込みが済んだら塩抜きを兼ねて茹でる。鍋にタップリの水を張り、水から茹で、弱火でじっくり3時間ほど茹でる。
❻茹で上がったら水気を切り、フォークで端から肉の繊維をほぐしていく。ほぐさずに塊のままでも構わない。欧米ではほぐさないことが多い。缶詰がほぐしてあるのは、端肉を効率的に使うためと思われる。
❼煮沸殺菌した広口ビンに押しつぶしながらしっかり詰め込む。
❽脂身を弱火でじっくり熱し液状にし、数回に分けてビンの上から注ぐ。冷えて固まると密閉栓の役目を果たす。

写真では既に切り分けてあるが、少量の脂身が付いた赤身肉の塊があればベストだ。脂身は捨てない。弱火で熱し液状にして、最後に密閉栓として使うためだ。

牛肉にはフォークで穴をたくさん開けて塩がなじみやすくしておく。ハーブミックスと塩は付けたり、まぶしたりするのではなく、しっかりともみ込むのが肝心。

日本のコーンビーフはほぐしてあるのが通例だが、欧米ではほぐさないものも多い。様々な調理に使うには、ほぐしてあるほうが便利かも。ほぐし加減はお好みでどうぞ。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。