長い眠りについた冬の森に恵みを求めてブッシュクラフトハンティング。命と恵みを感じながら自然と向き合えるこの季節が心を一番豊かにしてくれる。「自然と共に生きる」を考え、己を見つめ直す 長く穏やかに揺らぐ夜がそこにはある。写真・文/荒井裕介

ブッシュクラフター・荒井裕介
ブッシュクラフト歴19年。山岳写真家として活動。著書にアウトドア刃物マニュアル(誠文堂新光社)がある。狩猟者でもあり、積極的に狩猟採取をブッシュクラフトに取り入れている。
冬こそ野営が盛り上がる季節?
11月15日を過ぎると全国的にハンティングシーズンに入る。狩猟者である僕はいつもの装備にハンティング装備を加え、森に向かう。落葉し明るくなった森を歩き、今回も気に入った場所に寝床を作るが、いつもとは少し違う基準で野営地を選ぶ。冬の基準は空が広く見える場所だ。夜が長いこの季節、無数の星が見える。焚き火と星は長い夜の醍醐味だろう。
幕営の準備をし装備を軽くしたら、ハンティングの始まりだ。狩猟の場合、装備が軽い方が足音を殺せる分有利である。しばらくすると白樺が点在する中に大きなコブが見えた。これは収穫だ。白樺のコブはククサなどの食器や、ナイフのハンドルに利用する。コブ材は木目も美しく、乾燥させて加工すれば割れにくい特性をもつ。コブ材で作られたククサは、本場でも高い値段が付けられている。それもそのはず、採取して一年は乾燥のために寝かすのだから。今回採取したコブ材は来年の加工材料になる。ちなみにコブ材を切り出した跡は、白樺の樹皮から採取したバーチタールで傷口を覆い保護する。こうすることで切り出した部分の再生を促すのだ。
つまりは……、ハンティングはいわゆる鳥獣を狙う狩猟だけではない。ブッシュクラフトに欠かせない素材を得るためのハンティングもある。冬になると雪解け直前まで樹木は水分の吸い上げを減らす。凍らないためだ。そんな季節に様々な素材を採取し、保存して、加工する。森の中を食料と道具の素材、両方を求めて注意深く散策する。だから森全体を見渡せるこの時期は常に胸が高鳴る。薪も含め、生活全般を森を歩いて賄う。一般的にアウトドアのオフシーズンに入っていく冬こそ、命を実感できる良い季節なのだ。



今回の野営地全景

地形を利用してシンプルてかつ開放的なタープスタイルを構築
いかに居住性を高めるかがタープ張る上でのポイントだ。 今回の場合、寝床はフラットに、焚き火スペースは一段低い位置にすることでタープに効率よく熱を引き込むことができる。また、この地面の傾斜を利用すれば、就寝後の薪の補充が容易になる薪台を設置しやすくなるほか、トライポットを用いてギリギリまで張り出したタープが上昇気流に乗った熱を滞留させつつ、うまく煙を排出してくれる。落葉後の森で起こる突然の天候悪化に即時対応できるよう、ペグダウンのみで設置することかも重要だろう。


タープをひし形に低く張ることで奥側にストレージスペースを設ける。頭上は広く開放的にすることで視界の確保と作業性が上がる。
TOPIC
Q. 冬のブッシュクラフト野営は可能なのか?
A. 小さな薪でも長時間の燃焼を可能にする「オートファイヤーウッドフィーダー」があればOK
就寝後薪切れを起こすのは冬のオープンビバークではあり得ない。かといって焚き火番を置くわけにもいかないので、地形を利用したウッドフィーダー を設置する。こうすることで常に快適な温もりを得られるのだ。冬のキャンプの面白さは昔ながらの知恵にある。


少しカールした枝2本を火床に向けて下るようレール状に設置する。こうすることでレールの上に置いた薪が自重で火床へ滑り落ちるのだ。火床の薪が炭化してスペースが空くと、次の薪が自動で滑り落ちる仕組みだ。
ブッシュクラフトスキルで巧みに構築!野営基地解体図
シンプルという考え方は“兼用できる”ことだ。製作時間の短縮と素材の有効利用にこそブッシュクラフトスキルが現れる。機能的な物こそ美しいし、自然物を利用する意義がそこにはある。それを発想することこそがブッシュクラフトなのだ。
BUSHCRAFT 01. ファイヤーリフレクター

輻射熱とサイト全体の大黒柱を兼ねた優れもの。通常のリフレクターよりも大型にすることでタープの支柱を固定し、作業台としても使用可能にしている。リフレクターは焚き火の熱を効率よく利用するためのアイテムだが、それだけのために作るのではもったいない。
HOW TO MAKE

01. 大きな倒木があればそのまま利用してもよいのだが、条件が整わない場合は適当なサイズの倒木を運ぶ。

02. 等間隔に杭を打ち、そこに2本の丸太を重ねる。杭は丸太の曲がりに合わせて間隔を決め、両側に打つこと!
BUSHCRAFT 02. マストポールハンガー

トライポットにタープを張るのか、タープポールにトライポットを兼用させるのか? そんなことはどうでもいい。どちらにも重要な意味があるからだ。船のマストに見立てたポールにタープとトライポットを設ける。古くから船乗りであるバイキングが愛用した彼等らしい方法である。
トライポットの完成図。支柱の枝は完全に切り落とさずフックとして利用する。
HOW TO MAKE

01. リフレクター用に設置した丸太に長めの柱をかける。下は石等でし っかりと固定する。

02. タープポールを中心に支えのように2本の枝を交差してトライポットを設置する。

03. 先に2本をしっかりと固定する。3本同時に結ぶと支持力が下がってしまうので注意!

04. 先に結んだ2本がしっかりと支持するように設置してメインポ ールに結ぶ。
BUSHCRAFT 03. ノーノットシェルター

活動時間が制限される冬の森では一つ一つの作業を短時間で済ませたい。設営も撤収も素早く行うには、ノットを複雑化しないで確実に設営するべきなのだ。いや、もはや結ばずにペグダウン以外はただかけるだけでもいい。快適な屋根さえあればいいのだ。
HOW TO MAKE

01. メインポールにはリフターを掛けるか延長したループを掛ける。

02. ナイフで削り出したペグを3 本用意する。

03. メインポールに掛けた残りの3点をペグダウンすれば完成。設営は5分程だ。
BUSHCRAFT 04. ウッドコット

底冷えを抑え快適に眠るには冷気を遮断するだけでは快適な眠りは得られない。高さを上げて落ち葉を詰めて空気の層を作る。 野生を目覚めさせる眠りを森はいつでも与えてくれる。僕はこの 時間を大切にしている。森に朝が訪れるまでの安らぎの場所だ。
HOW TO MAKE

01. まず土台となる丸太を2本集める。長辺の長さかは自分の身長より30cm程長くとる。

02. 土台の丸太にかける枝を大量に集めて、土台の幅に合わせて切断していく。

03. 枝をハシゴ状に渡し、間に落ち葉を詰めてシート、遮熱マット、マットを置いて完成。
ちょっとしたアイデアで快適に過ごすブッシュクラフト小技集
文明の利器よりトラディッショナルの安定力
標高や気温に左右されてしまうライターよりも、手の濡れや燃料を気にすることなく作業かできるフィロセリウムロッドがいい。白樺、麻ひも、ツリガネタケ、ファットウッドといった自然物を簡単に火種に変えてしまう。火熾しは森での腕試しなのだ。

01. 松や杉等の針葉樹の枝をフェザーリングして行く僕の場合は3辺をフェザーリングすることが多い。

02. 白樺の外皮はミルフィーユ状にいく層にも重なっている。それを小分けに剥がしておくと火を移しやすくなる。

03. 火床に白樺を数枚置き、焚き付けを乗せる。山状にのせるのがいい。焚き付けは針葉樹と広葉樹のミックスが好みだ。

04. 白樺の皮をナイフでササクレ立たせ、ナイフの背でファイヤースターターを擦る。慣れてくれば、一発で着火できるようになる。

05. 火床の白樺に火を移すと黒い煙上げながら炎が大きくなる。これは白樺に含まれる油分の多さによってススが出ているのだ。

06. 焚き付けを追加しフェザースティックを乗せる。この後は薪のサイズ上げて熱が逃げないように着火を促せばいい。
ポットハンガー対応になるひと工夫
スチールワイヤーの両サイ ドをループにし、一層のステンレルボトルやマグを吊るす。こうするとポットハンガーに掛けられる。


トライポットを使うならチェーンとS字は必須
S字フックとチェーンでスモークからポットハンガーまでをこなす。 自分の使用サイズを決めて自作すればオリジナルグッズだ。

素材は枝まで有効活用が基本だ
トライポットの枝葉は有効活用する。足元に鍋等の装備を置くと作業性は落ちので、吊り下げ用ワイヤーを自作すればあらゆるものをかけておくことが可能だ。

白樺のコブ材を急激な乾燥から守り保存
沢沿いに落ちていたビールの空き缶を利用しロウソクを溶かす。溶けたロウをコブ材の断面に塗り広げる。しっかりコートすることで急激な乾燥を防げる。

