【vol.73】にわとりのいる暮らし No.52

この冬、飼っている生き物の行方不明騒ぎが続いた。真冬だというのにチャボのチッタが庭の片隅で卵をあたためてしまい、無防備な状態を心配していたら、アライグマ(たぶん)に襲われてしまったのだ。闇の中、突然やってきた得体の知れないものに、平和を奪われる戦慄が走った。

チッタの悲鳴が聞こえたとき、私は寝転がってお正月に息子が持ち込んだ「スイカゲーム」をやっていた。スイカゲームのほのぼのした雰囲気がチッタ失踪の恐怖と結びついて、罪悪感でそーっとゲーム機器を押し入れにしまった。罪悪感といえば、うちの丸々太った黒猫のヤマトも、どこかでか弱きものにツメを立てているかもしれないし、夫も平和に生きている鹿を殺している。

もう一件は、雑種犬のナツだ。熊本・阿蘇山付近の公衆電話から「もう二四時間、ナツが戻ってきていない」と文祥から告げられたのが、大騒動の幕開けだった。娘が父の代わりにXに投稿。一日二回、公衆電話からの電話を待ち、情報をやりとり。

この窮地を救ってくださったのは、阿蘇山麓の町の方々だった。寝泊まりする場所、車や携帯まで貸し出していただいた。「今がチャンス。文祥にスマホを持たせよう」と友人らとLINEで盛り上がった。

犬を山で放すのはある程度のリスクを覚悟の上だが、戦争や災害に巻き込まれて家族が行方不明になったとき、残された側が生きていくことはどんなにつらいことか。今回のことがあってつくづく考えさせられた。

服部家の生き物
「ナツ」 ♀ 満身創痍で生還。今年は厄年なのでしょうか。
「ヤマト」 ♀ はっとりさんちを見守る猫。
「チャボたち」 コサムはメスでした。八羽の中に派閥が生まれています。

服部家の人々
「ブンショウ」 やっぱりスマホは持ちません。
「コユキ」 『はっとりさんちの狩猟な毎日』文庫化決定しました。
「シュウ」 春から大学生です。
「ショウタロウ」 引っ越しと旅行に、初ボーナスが飛ぶ。
「ゲンジロウ」 春から、調理師として就職します。

服部小雪

イラストレーター。さまざまな種類の鶏と、ヤギを飼うのが夢。夫の服部文祥と子どもたちとの暮らしを綴った『はっとりさんちの狩猟な毎日』(河出書房新社)が発売中。インスタグラムを始めました。
yamatonatsu1109