【vol.69】第37回 伝統保存食入門

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ホタテの貝ヒモの旨煮

貝焼きのような場合を除いて、残念ながらホタテ貝は貝柱しか食べられていないのが現状だ。しかし漁師に言わせれば、一番美味いのは貝柱よりも「ヒモ」なのだという。大人になって僕もやっとそれがわかってきたようだ。

本当に美味いのは

僕は青森で生まれ育ったせいもあり魚介類には特別の想い入れがある。育ち盛りの中学の頃には「毎日毎日ホタテじゃなく、肉を食わせろ」と親やバアちゃんに泣いて頼んだこともある。今から考えればたいへん贅沢な話だ。東京に来て驚いたのは「こんなのは収穫するサイズじゃない!」と思うほど小さいホタテが普通に売られていたことだ。貝柱の直径5㎝以下のものはまだ稚貝という認識であり、青森の市場でもそんなものは売っていなかったからだ。

そして今、他人に話すと「絶対ウソ!」と言われるのだが、幼少の頃の僕は病弱で、病院に通うためによく学校を休む子供であり、その延長で半ば登校拒否のようになっていたこともある。スマホやゲーム機などもない時代だったから、本を持って裏山へ行ったり、浜に行って漁師のジイちゃんと話したり、時には船に乗せてもらったりもしていた。ホタテがどうやって育てられているか、海がどれだけ怖いところなのかなど、その時聞かせてもらった話や、魚や貝の保存方法や捌き方は、学校では教わることのない「本当に大切な知識や知恵」だったのだと今では思う。

「ホタテはな、みんな貝柱ばかり食べて他は捨ててしまうけど、本当に美味いのはヒモなんだ。食べるには手間がかかるし、この旨さは大人にならなきゃわかんねえかもな」と教えてくれた漁師のジイちゃん、あんたの言ってたことは本当だよ。

【材料】
ホタテ貝ヒモ300g程度、ショウガ1個、海塩100g、砂糖100g、みりん100cc、醤油50cc

【作り方】
❶塩を貝ヒモに揉み込む。
❷包丁の背やスプーンのヘリなどを使ってヌメリを丁寧に落として、水で洗い流す。
❸①と②を3回程度繰り返す。全体が左下の写真程度まで白くなってきたらOK。
❹食べやすい長さに切る。そのまま食べてもコリコリして美味い。甘く淡白な貝柱と違って磯の香りも強く、同じ貝でも全く違った香りと食感が楽しめる。
❺ショウガは薄切りにしておく。
❻砂糖、みりん、醤油、ショウガを鍋で煮立たせる。
❼処理の済んだ貝ヒモを加えて弱火で煮詰めていく。
❽汁気がないくらいまで煮詰めた方が保存性は高まるが硬くはなる。そのへんの加減はお好みでどうぞ。日本酒の肴にピッタリ。※貝ヒモの旨煮を刻み、お湯にしばらく浸してダシの出た汁と一緒に、サッとゆがいたご飯にかけ、おろしショウガとネギ、ユズなどを散らすと最高の茶漬けになる。

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ホタテの貝ヒモ(生)は大手スーパーではまず見かけない食材だ。ありがたいことに、うちの近所にある自然食品系スーパー「マザーズ」の鮮魚売り場では殻付きのホタテだけでなく貝ヒモもよく見かける。「わかってるねえ」とうれしくなる。

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大量の塩を振りかけ揉み込む。最初はヌメリとともにグレーの汚れがたくさん出るが驚かなくていい。元々、貝の仲間は海底にいるものなので、そんなもんだと思うこと。

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スプーンのヘリなどでヌメリをこそげ落とす。手順1と2を3回程度繰り返すと、最初の茶色い姿とは見違えるほど白くなる。生のままレモンを絞って食べるのもたいへん美味。

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写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。