【Vol.67】肩書きや金が意味をなさない 環境下での生存術を学ぶ ー終末(週末)野営訓練ー

長期野営に耐える
アウトポスト設営術

金という紙切れしか持たない政治家や資本家を横目に知恵と技術で豊かな営みを築く

万が一、もとい、いつか必ず起きる大規模天災および人災に備えて、まずは長い歴史に裏打ちされたボーイスカウトの集団生活スキルを日頃の野営に活かしたい。我々アウトドアマンには荒廃した市街地で暴徒に怯え、ただ耐えるだけの日々から抜け出す知恵と技術が備わっているのだ。

有事下で頼りになるボーイスカウトの技術と精神

子どもの頃のボーイスカウト経験が災害時をはじめ、サバイバル的状況で役立つというのはよく聞く話である。人命救助に活用できるロープワーク(もやい結びや腰かけ結びなど)をはじめ、ロープワークを応用したシェルター構築、現地調達物で道具を生み出す野営工作、非常時の通信手段となる手旗信号、モールス信号、のろしを使った救難信号など例を挙げればきりがない。いざとなれば橋やイカダ、通信塔などの大型構築物を構築することも可能だ。実際にスカウトは有事の際になにか人の役立てるかもしれないとの想いを胸に日々技術を高めるのである。

具体的な技術もさることながら、ボーイスカウトに受け継がれるマインド面も見過ごしてはならない。例えばボーイスカウトのモットーである「そなえよつねに」は、いつどんなことがあろうと、また困っている人を助けられるようあらゆる備えをしておくという心構えを謳っており、まさに有事に役立つ精神である。また、通常のスカウト野営では「創意工夫」を凝らしてサイトを構築し、「日々の改善」を怠らずに快適な空間を目指す。さらに「撤営までが設営」の精神でインフラの行き渡らない森の中で自然に寄り添いながら、仲間と野営生活を行うのである。

スカウト野営で実践されてきた森林生活術と100年の歴史の中で培われたボーイスカウトの精神は、限られたリソースしかない有事下を強く生き抜く力になるだろう。

ボーイスカウト 川口第19団ボーイスカウト隊長 加藤愛彦

学生時代はワンゲル部に所属。無人島や森林軌道探検、ニホンオオカミ捜索、豪州大陸自転車縦断、チベットカイラス山巡礼、John Muir Trail踏破など雑食系。本格的な冒険よりも少年の冒険や探検に毛が生えた辺りを攻めるのが好き。

長期滞在を想定した野営地構築のポイントを押さえる「アウトポストのABC」

長期野営において安全性と衛生面、快適性が重要な要素だ。中でも最優先すべきは安全性で、具体的には荒天対策や刃物の保管、動線上の危険物排除などに配慮する。食料周辺の管理はもちろん、ごみや汚水、排泄物処理も考えるべき点。ストレスなく生活できるよう快適性も追求したい。

木々に囲まれてプライベートを確保できる場所に図のような配置でサイトを構築し、地面が平らな場所を選んで寝床を作る。事前の計画と現場でのアドリブ力が重要だ。

[POINT.01]野営地レイアウト

作業の流れ(動線)を意識して配置する
機能的なサイトには、安全や衛生が確保されたうえで、あらゆる作業をスムーズに行える実用能力が求められる。寝床からメインテーブルやキッチン、クローゼット、道具棚へのアクセスに優れ、食事関連においては水汲み~調理や食事、食洗までを流れるように行えるのが理想であろう。また、野営地の地形的特徴や環境的特徴も意識し、かまどやごみ箱などは風下に設置するのが基本だ。

[POINT.02]効率的火力

風雨に強く効率的な調理が行える火床
長期野営では、火も欠かせない道具のひとつ。反射炉は3辺を炉壁で囲うので、強い放射熱を炊具に集められ、耐候性にも優れる。そのため安定した火床としては最適だろう。構築する際は耐久性の高い枝で強固に作り、高火力で燃えるため、ダイニングフライで張ったタープのやや外側に設置するといい。また焚火時は必要最低限の薪で炊事を行い、使った薪は灰になるまで燃やし切るというスカウトの精神も忘れてはならない。

[POINT.03] 環境に耐える寝床

天候の変化を見越した寝床作り
スカウト野営では、生活エリアと就寝エリアは分ける。これは1班6名を標準班とする規模的な理由が大きい。もちろん寝床にも安全性や快適性を求めたいので、今回はステルス張りで寝床を構築した。長期に渡る野営では、いつ自然の猛威に晒されるかわからないので、環境の変化に左右されない耐久性もマストである。ちなみにスカウトは衛生上の理由から、湿気を吸ったテントのグラウンドシートと地面を毎朝乾燥させる習慣がある。

[POINT.04] 長期滞在用設備

長期滞在の鍵を握るトイレとごみ箱
森での長期野営時、衛生環境を維持するうえでごみとトイレは重要な問題となる。ごみは分別型のごみ箱(写真上)を作れば、持ち帰ってそのまま捨てることができる。トイレは普段のスカウト野営ではたいてい穴を掘り、枝を打ち込んで作った洋式トイレ(写真下)を使用する。使用後は土をかぶせ、土に還らないペーパーだけは燃やして灰にするのがマナー。簡単にシートなどを目隠しとして取り付ければ、集団生活となってもプライバシーを守れる。