【vol.62】認諾と国家権力

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前回の記事で「八丈でヤギ肉が食えなくなって残念だ」と書いたら沖縄の友人がヤギ肉を送ってくれた。薪ストーブで鍋いっぱいに煮込んだヤギ肉を久しぶりに堪能することができて幸せだった。

トンガの噴火の影響で低気圧の波とは明らかに違う大きなうねりの入ったオバケ波がしばらく続いた。浜の様子を見に行くと前日から行方不明になっていたボディボードをしていた男性の死体が浜に流れ着いたということで警察が集まり大騒ぎになっていた。

コロナが落ち着きそうな春頃にはメキシコへ撮影に行こうと考えているが、現地と連絡を取ると長年取材しているマリオの妻が幼い娘を残して数ヶ月前にコロナで死んだと聞いて、しばらく茫然自失となった。マリオは自身の兄が誘拐されたことを契機に、犯罪組織に誘拐されて行方不明となった肉親を探す家族たちと連携して、メキシコ全土を飛び回って精力的に活動している(本誌vol・49「メキシコ・マフィア国家 日常の生と死」にて紹介)。

僕もマリオたちと行方不明者を探しに山や砂漠に何度か同行した。マリオは為政者と犯罪組織が一体化した敵味方の判別がつかない混沌とした状況下で、日常的に脅迫を受けながらも屈せずに活動を続けている。彼の家は投光器をつけた背の高い金網で囲まれ、庭には大型犬を放し飼いにしている。そして夜は決して外に出歩かない。

メキシコと状況は変わるけれど、日本でも私物化された国家の暴力は形態が違うだけで本質は変わらない。僕が10代の頃、成田空港建設反対のデモの撮影していた時に、マスクとサングラスをかけた不気味な出立ちの大勢の公安警察たちに突然「お前最近よく見るな。何やっているんだ!」と腕を捻じり上げられた。逃げ足だけは早い僕は運よく逮捕は免れたが、自分たちが属しているはずの「普通」といわれている日常や社会の階層から少しずれて国家権力にとって不都合な存在になると、簡単に押し潰ぶされてしまう巨大な暴力の存在をはじめて知った。

森友学園の国有地売却を巡る公文書改ざん問題で真相を求めて国を相手取って裁判をしている赤木俊夫さんの妻、雅子さんがひょんなことがきっかけで八丈島に遊びにきた。彼女は八丈島が気に入ったらしく、自宅のある神戸から東京に用事がある都度、島に遊びに来るようになった。ここにはコンビニもなく、携帯の電波も通じにくい、誰にも煩わされない、そんなところが気に入ったのかもしれない。

安倍晋三元首相の「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」という発言から、国会答弁の整合性をとるために公文書の改ざんを上司に強要された俊夫さんは自分の部下だけは守りたいと1人で改ざんの全責任を背負い、自宅で自死した。そして改ざんの強要をした赤木さんの上司達は後に全員が出世した。

トカゲの尻尾きりで他者の命を踏み台にし、自分の利益だけを優先する構図はメキシコのマフィア国家と変わらない。裁判所にこれまで存在の有無さえも明かしてこなかった赤木ファイルの提出を求められ形勢が悪くなると、国は真相解明を避けるために非公開の協議で不意打ちに相手の賠償請求を認める認諾をした。そして、国は裁判を打ち切り、改ざんを指示した佐川元理財局長などの関係者の証人尋問を阻止した。国賠訴訟で国が訴えを自ら認めて終結することは極めて異例だ。

「本当のこと」を知りたかった雅子さんは、国民の税金で支払われる賠償金1億700万円を「汚いお金」と話す。「趣味は『赤木俊夫』というほど仲が良かった、平凡だけどとても幸せだった」彼女の人生は、森友事件によって一変した。雅子さんは事件以来、複雑性悲嘆と精神科医に診断され、睡眠薬がないと眠れない生活が続く。

「家族の中に自殺者が出るとその周りの5人も不幸になると聞いたことがある。私の場合は私と母親、兄、夫の父親と弟。その後の人生はそれぞれが強い影響を受けた」

「夫が好きだった地元の酒蔵の酒粕を入れた粕汁が鍋一杯に上手にできた時、急に何だかとても虚しくなって台所の流しにすべて投げ捨てた。それ以来、家で料理することはなくなった」

そう話していた彼女から、八丈島から神戸に戻った翌日にメールが来た。

「帰ってから久しぶりに料理を作りました。雑煮です。お餅を正月にもらっていてやっと実現できたよ。八丈島でみんなにたくさん料理をふるまってもらいスイッチが入りました。野菜刻んだのいつぶりだろう」

メキシコのマリオとともに肉親を探すメンバーや今まで出会ってきた紛争地で暮らす人々、沖縄集団自決の生き残りの方々もそうだが、男性よりも女性の方が世間や政治からの同調圧力に屈せずに、論理ではなくて本能で根源的な生命を守ろうとすることが多いと感じる。

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2003年 アンゴラ・メノンゲ 停戦後、安全とわかってジャングルから出てきた元反政府軍の親子

亀山 亮

かめやまりょう◎1976年生まれ。パレスチナの写真で2003年さがみはら写真新人賞、コニカフォトプレミオ特別賞。著書に『Palestine : Intifada』『Re : WAR』『Documen tary写真』『アフリカ 忘れ去られた戦争』などがある。13年『AFRIKA WAR JOURNAL』で第32回土門拳賞を受賞。写真集『山熊田 YAMAKUMATA』が2018年2月、『戦争・記憶』(青土社)が2021年8月に刊行された。

1 個のコメント

  • Netflixで森友時間をテーマにした「新聞記者」というドラマを見たばかりだったので、複雑な気持ちです。
    赤木さん負けないでほしいです…

    話は変わりますが、去年から群馬県の嬬恋村に
    帰って両親の跡を継ぎました。
    夏になったらキャベツ送りますね!
    亀山さん時間があるときはしょうへいと
    一緒に遊びに来てください。
    今年銃の免許も取る予定です。
    釣りしたりしましょう。

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