【vol.61】第29回 伝統保存食入門

ハンチュミ

沖縄の宮廷料理として、または家庭の常備惣菜としての歴史を持ちながら、現在では「幻の」と呼ばれるようになってしまったのがこの「ハンチュミ」。確かに時間はかかるけれど、作り方は至って簡単。しかもおいしい。是非チャレンジしていただきたい。

幻の沖縄保存食

古くは琉球宮廷料理として知られ、30~40年ほど前までは沖縄のどこの家庭でも常備惣菜として作り置きがされていたというものなのだが、最近は「幻の保存食」と言われるほどになってしまったのが今回紹介する「ハンチュミ」である。簡単に言うと鰹節がたっぷり入った豚肉の佃煮だから、味についてはこれはもうまずかろうハズがない。

しかし、これまで何回か佃煮系のレシピを紹介してきたが、今の世の中、佃煮も市販品を買ってくることが当たり前で、自作することがほとんどなくなってしまっていることを考えれば、ハンチュミも「幻」化してしまって当然なのかもしれない。沖縄の家庭の味と呼ばれるアンダンスー(肉味噌)よりもはるかに時間と手間がかかるのも、その理由と思われる。

文献を見るとハンチュミにはグーヤーヌジ(豚の前足の付け根肉)を使うとされているが、内地ではなかなか手に入らない。腱や脂肪が多い部位の肉を煮込みながら選り分けていくのは魚で言えばアラを使った料理と非常に似ており「鳴き声しか捨てない(鳴き声もおいしそうなので、捨ててないという人もいる)」と言われる沖縄での豚の扱いを表すレシピのひとつだと言える。田原精肉店の一美ネーネーは「うちではどこの肉とかあんまり気にせず、その時ある肉で作っていた」と言っていたので「余らせずに使う」ことの方を優先していたと考えていいだろう。

【材料】
豚肩ロース肉500g、醤油150~200cc、砂糖200g、泡盛400cc、ショウガ大1個、鰹節4.5gパック3袋

【作り方】
❶豚の肩ロース塊肉を4~5cm角に切る。間に入っている脂肪分は取り除く。冷凍しておけばラードなどに使用が可能。
❷①を泡盛の半量200cc、鰹節4.5g1パック、ショウガの半量を千切りにしたものと一緒に鍋に入れ、ひたひたになるくらいまで水を足し、弱火で1~2時間弱火でじっくり、肉がホロホロに柔らかくなるまで煮込む。途中減った分の水はこまめに足す。
❸肉を取り出し、温かいうちに手でできるだけ細かくほぐす。冷めるとほぐしにくくなるので注意。残った脂肪分も取り除いておく。煮込まれたショウガと鰹節は捨てずにほぐした肉と一緒にしておく。煮出した汁は最高にいいダシになっているのでこれも捨てずに他の料理のスープとして使う。
❹水分を飛ばしやすいように、なるべく大きなフライパンに③と泡盛の残った半量200cc、醤油の半量、砂糖の半量、ショウガの残りのすり下ろし、鰹節2パックを入れて炒め煮にする。
❺途中、味を見ながら醤油と砂糖を加えていく。最初に全量入れてしまうと人によっては味が濃すぎるということにもなりかねない。
❻煮汁がなくなるまで炒める。
❼煮込む際に昆布ダシや椎茸のダシを加える人もいる。保存は冷蔵庫で。

ハンチュミには豚の前足の付け根の肉「グーヤーヌジ」を使うとされているが、今回は肩ロースの塊肉を使用。田原精肉店では「ハンチュミを作る」と言えば、選んで切り出してくれる。さすがウチナーンチュ。

肉を柔らかく煮るためには水から煮るのがポイント。お湯に入れると肉が締まってしまう。肉のエキスが出た煮汁は、とてもいいダシになるので捨てないこと。

ほぐしきれていない肉も、炒めながら木べらで押しつぶすようにしていくと細かくほぐれていく。丁寧な作業がおいしさへの大事なポイントとなることを忘れずに。

写真・文 鈴木アキラ

1960年生まれ。料理と刃物研ぎが大好きな飲んべえアウトドアライター。「アウトドアで活躍!ナイフ・ナタ・斧の使い方(山と渓谷社刊)」ほか著書多数。