一気に寒さがくるのかと思って過ごしていたら意外と寒くない。中途半端な冬入りだ。生き物的には例年通りの気候がいいわけだが、私は寒いより暖かい方が嬉しい。天気予報で今年は暖かい冬になるでしょうなんて言っているとかなり嬉しく思う。
今回挑戦するのは七草粥。1月7日、人日の節句に食す伝統的な料理だ。といってもあまりピンとこない人が多いのではないだろうか? 簡単に言うと、正月に美味しい料理やお酒をたらふく食べて、お腹が悲鳴をあげ、そろそろ正月料理も終わらせ弱った胃を休める意味でお腹に優しい料理をと用いられた料理の1つと言われている。また無病息災の願いも込められている。この草のおかゆには7種類の草が用いられるのだが、それぞれ効能があり、おおよそお腹にいいもので構成されている。
そもそもこの七草粥を食べる習慣のはじまりは、平安時代とかなり古くまた、季節も旧暦でもっとずっと後の行事でもある。今それを真似して野草を摘みに行くと、ほとんど冬の形で、ロゼットであったり、まだ芽が出ていなかったりする。相当植物に詳しい人でない限り、冬の芽を摘むことができないのだ。これは今でいうと2月終わりから3月中旬ごろが妥当だと私は思う。矛盾点はもう1つある。まずは七草を紹介する。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロの7種。これを聞くとゴギョウってなんだ?
ハコベラ? スズナ? スズシロ? ってなる。昔に呼ばれていた名なんだろうが、現在ではちんぷんかんだ。園芸ショップやスーパーの野菜コーナーで七草粥セットを買うのであれば間違いないが、自然のもので摘んでくるとなるとえらく大変なのだ。ゴギョウはハハコグサ、ハコベラはハコベ、スズナはカブ、スズシロはダイコンなのだ。野菜が入っているではないか! 人の畑から採るのか? おまけにホトケノザは今でいうとコオニタビラコと紛らわしい。
スズナとスズシロは野に生えている他の草に変えることにして郊外の土手に七草を採集に出かけた。幸い今年の冬はあまり寒くないので冬の形になっているものが少なくわかりやすい。冬の姿というのは草たちの越冬の形で縦に伸びず、地べたにピタッと広がっているスタイル。これをロゼットと呼んでいる。
採集は葉の部分を摘むので簡単ではあるが、葉だけで、ましてすごく小さな葉になっているので詳しくなければ間違えて摘んでしまう。しかもそれを口に入れるのでかなりのリスクがある。知らない人は絶対にやめた方がいいのだ。毒草なんて持ち帰り、お腹を休める意味のある七草粥を食べて倒れたらシャレにならない。
さて、スズシロとスズナだが、私はクレソンとノボロギクにした。たまたま見つけたからってこともあるが、口にできる草なのでオーケーでしょう。この土手菜(土手で採れる食べられる草)は、摘む時に注意することがある。それは、犬の散歩コースでもある土手で採集するのだから、わかりますね。そう、犬のフン! できるだけいい場所で、綺麗なものを選ぼう。この七草は無理に完璧に揃えなくても、自分が知っているもので食べられる葉を7種類でも十分だと思う。自信のある7種類の葉でやってみてほしい。雑草を食べるチャンスでもある。
装備
これといって用意はいらないが、摘んだ葉を入れる袋や摘む時にカッターナイフがあると便利。あとは、長靴があるとぬかるみも歩きやすい。植物の同定方法がわからない人はわかりやすい図鑑を持っていくといい。毒草もあるので、迷ったら採らないこと。
“七草”とは春の七草を指す。セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロの7種でそれぞれ意味を持ち、薬草的な要素も含まれている。
土手菜はたくさんあるので一番いい状態のものを摘む。今回はたくさんいらないので葉のいいところを摘んだ。
畦や土手などで採取する。冬の形の草は葉が小さくなっているなど見極めがむずかしく、同じ種類でも葉の形が違うので注意。
摘み方
コオニタビラコのロゼット。七草ではホトケノザと言われている。ロゼットは寒さをしのぐ冬の形。カッターナイフで中心の根を少し土の中をそぐようにして切る。1人前ならこれで十分な量だ。
今回採取した春の七草
ホトケノザ
右上の写真が今で言うホトケノザ(シソ科)。昔はコオニタビラコ(キク科)を指していた。全く違う草なのだ。要注意。
ナズナ
背丈の低いアブラナ科の草花でペンペン草と呼ばれている。どこにでも生えている土手菜だが花がないとピンとこない。
ノボロギク
スズシロは本来大根を指す。野生ではないので、食べても美味しいノボロギク(キク科)にした。代用は他にもある。
ハコベ
ハコベラは今のハコベ(ナデシコ科)。これもどこにでも生えている。小学生の頃飼育係でウサギの餌でよく摘んだ。
ハハコグサ
七草ではゴギョウと呼ばれているがハハコグサ(キク科)のことだ。葉に白く短い毛があり白く見えるのでわかりやすい。
クレソン
スズナはカブなので、自然界にない。代わりにクレソン(オランダガラシ・アブラナ科)を選んだ。
セリ
水の気配のある場所で見つかるセリ科。摘んで茎やちぎった葉の匂いを嗅ぐとなんとなくセリ臭い。茎も食べられる。
七草粥を作る
1.摘んだ草はそんなにたくさんはいらない。傷んでいないいいところを7種同じ量で使う。写真は1膳分。余ったらおひたしで食べる。
2.摘んだ7種の草をボールに入れて流し水で丁寧に洗い、ゴミなどを取り除く。5分ほど水に浸けておく。
3.沸騰した水に全てを入れて5分ほど茹でる。茹で終わると同時に水にさらす。綺麗な黄緑色に変わる。
4.さらしたあと種類ごとにわけて2cmほどに切りわける。こうなると種類の見分けはできない。
5.炊いたご飯1膳と500ccの水で沸騰させる。沸騰したら七草を入れる。1、2分グツグツさせる。
6.軽く塩を2つまみパラパラと入れて完成。味を見て塩を足す。素朴な味で楽しむなら塩だが、醤油味もおいしい。
7.ゆっくり味を見て楽しみたいところだが、どの葉の味かはわからなかった。確かにお腹には優しそうだ。
完成! 各草に効能があるならそれはそれで胃腸にいいのかもしれない。昔はこういった植物で補っていたのだろう。
日本野生生物研究所 奥山英治
主にテレビ番組やアウトドア雑誌や本などを中心に、自然遊びや生き物の監修などで活躍中。「触らないと何もわからない」をモットーに子供向けの自然観察会も行っている。著書に『虫と遊ぶ12か月』(デコ刊)などがある。