モンベルは値上げの大河を遡行する沢やである
先日、日本を代表するアウトドアブランド「モンベル」の2026年春夏ラインナップ展示会へ行ってきたのだが、我々Fielder編集部はそこで昨今の狂乱物価の常識を覆す、ある種“異常”とも言える価格設定を目の当たりにした。
ユーザーから高い支持を受けるいくつかの定番モデル、「ステラリッジテント」や「シームレスダウンハガー」など。 昨今の経済情勢を考えれば、「どうせ高くなったんでしょ?」とか、「またシュリンクフレーション(ステルス値上げ)でしょ?」と身構えてしまうが、事態はまったくの逆。モンベルはこれらの定番モデルを3千円以上(「マイティドーム2」に至っては2万円以上!)も値下げしてきたのだ。
しかもここで特筆すべきは、はじめから安い素材を使い、安い工程で作った「廉価版」をラインナップに増やすという安易な物価高対策ではないという点。モンベルは、これまで第一線で評価を得てきた定番モデルの性能をキープしつつ、環境への影響は抑えて、素材の調達ルートや製造工程をミリ単位で見直すという企業努力によって、販売価格を押し下げてみせた。
「便乗値上げ」と「内部留保」に狂う現代経済へのアンチテーゼ
世の中の主流や常識から脱する話になると長々書いてしまう雑誌ゆえ、懲りずに今回も書かせてもらうと、このモンベルの決断がどれほど特異なことか、現代のマクロ経済的歪みと照らし合わせれば一目瞭然だ。
例えば昨今のビジネスシーンを席巻しているのは、AI導入による極端な「コストカット」だろう。業務を自動化して仕事が少なくなったからと給与水準を引き下げ、果てには従業員をリストラする。その一方で、資源高やインフレを大義名分にして製品の販売価格は据え置くか、ステルス値上げを敢行する。結果として何が起きているかというと、生み出された莫大な利益は労働者にも消費者にも還元されず、ただひたすらに企業の「内部留保」として蓄積されている。
米国の政治家バーニー・サンダースは、自著の中でこうした事態を「企業による強欲(Corporate Greed)」と痛烈に批判している。これはインフレという混乱に乗じて、企業が生産コストの上昇分以上に価格を吊り上げ、過去最高の利益を貪求する振る舞いである(※1)。
また、マサチューセッツ大学の経済学者イザベラ・ウェーバーらが提唱した「売り手主導のインフレ(Seller’s Inflation)」(※2)の論文が示す通り、現在の物価高の少なからぬ部分は、巨大資本が自らの利益率を意図的に引き上げたことによって引き起こされた「作られたインフレ」の側面が強い。
さらに言えば、フランスの経済学者トマ・ピケティが『21世紀の資本』で証明した有名な不等式「r > g(資本収益率は経済成長率を上回る)」(※3)の通り、現代のシステムは放置すれば必ず「株主(資本)」ばかりが豊かになり、「労働者・消費者」の富は相対的に収奪されていく仕組みとなっている。
これらを鑑みると、モンベルが敢行した今回の「性能を維持したままの値下げ」は、まさに「r > g」という資本主義の強大な流れに真っ向から逆らう特異な行為と言える。世の習慣では内部留保や株主配当に回していたはずの利益(企業努力によるコスト削減分)を、自社の懐に入れるのではなく、ダイレクトに「消費者の販売価格低下」という形で社会へ還元(再分配)したのである。
アウトドア文化という「コモン」を守るために
なぜモンベルは現代の経済合理性から外れた「泥臭い企業努力」を選択したのか。そこにあるのは、どれだけ物価が上がり、人々の生活が圧迫されたとしても、「自然の中で過ごすアウトドアという文化を、一部の富裕層だけの道楽にせず、誰もが続けられるものにしておきたい」という、ブランド根底に流れる文化醸成への強い思いだ。
すべてのモノが金融商品のように扱われ、企業が数字上の利益ばかりを追い求める現代において、自然という「コモン(共有財産)」へアクセスするための道具を、適正かつ良心的な価格で提供し続けること。それは単なる商売を超えた、ひとつの社会的抵抗とも言える。
見せかけの付加価値で我々から富を吸い上げるブランドを選ぶのか。それとも、実直な企業努力で野遊びの文化を支えようとするブランドを選ぶのか。 我々アウトドアマンの「買い物」は、裏で色々癒着が激しい資本主義経済における、最も身近で最も確実な意思表示となるはずだ。
※1 バーニー・サンダース『It's OK to Be Angry About Capitalism(資本主義に怒っていい)』より。インフレ下における大企業の便乗値上げと、労働者を軽視した自社株買いや内部留保の蓄積による「強欲資本主義」を告発した著書。
※2 イザベラ・ウェーバー、エヴァン・ウェスナー“Sellers’ Inflation, Profits and Conflict: Why can Large Firms Hike Prices in an Emergency?”より。コストショックを口実に、企業が利益率(マークアップ)を維持・拡大するために価格を引き上げる「売り手主導のインフレ(グリードフレーション)」のメカニズムを実証した論文。
※3 トマ・ピケティ『21世紀の資本』より、資本の収益率(r)は常に経済の成長率(g)を上回るため、富は資本家へと偏在し続けるという資本主義の構造的矛盾を歴史的データから証明した著書。

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