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有事に活きる真のサバイバルスキルを野遊びで習得せよ!
乱世のDIY
何でも起こり得る現代日本で最後に頼るべきは自力

有限の塊・地球に見る人間社会の成長と矛盾
地球は“無限空間”ではない。ビッグバンにより生まれたエネルギーが未だ拡散を続け、安定へと向かうこの宇宙において、地球は閉じたエネルギーおよび物質循環系にある。電子が原子核に囚われているような現在の低エネルギー空間では、基本的に真新しい原子は生まれず(※1)、当然地球の総資源量も一定。限られた物質が水・大気・生態系を介して循環するだけで、特定の動物が無制限に成長できるだけの新たな資源など、もはや湧き出ないのである。
つまり、今なお人類が求めてやまない成長とは、究極的には地球の持つ資源・生態系の“劣化と引き換え”にしか成立しない。これは物理法則であり、思想ではない。
実のところ地球の限界はどこまで迫っているのか
それでは一体、人類の成長を支えてきた地球の限界はどこにあるのか。こちらも思想ではなく物理的な数値で、ストックホルム・レジリエンス・センターが明らかにしている。彼らが明示する「プラネタリー・バウンダリー」は、地球が人類を支えるために維持しなければいけない環境の安全域を、気候変動、生物多様性の損失、新規化学物質、海洋酸性化、大気エアロゾル負荷、土地利用変化、淡水利用、生物地球化学的循環(窒素・リン)、成層圏オゾン層の破壊という9つで示した科学的枠組みで、それぞれ一定のしきい値を超えれば不可逆的で壊滅的な変化が起こるというものだ。
ここで“しきい値”という概念の一例を挙げるなら、大気中のCO2やメタンの濃度がわかりやすいだろう。これらはすでに人類が農耕や森林伐採をはじめた5千~8千年前から増加していたとする研究(米バージニア大学/ウィリアム・ラディマン)があるが、人類の成長に伴うある程度の増加までは、その他動物の影響と同じく、自然の大規模な循環に均されて表面化してこなかった。しかし、それが産業革命以降の資本主義社会、つまり権力の強欲を満たすために必要以上の成長を脅迫する社会では、自然の循環から溢れ出て(しきい値を超えて)実害を及ぼすようになったというわけである。
現に先の9つのうち、気候変動、生物多様性の損失、新規化学物質、海洋酸性化、土地利用変化、淡水利用、生物地球化学的循環(窒素・リン)の7つはすでに限界を突破していて(2025年9月時点)、日本でも環境白書が取り上げている(環境省は認識しているということ)。気候変動に関しては毎年夏になると実感するのでわかりやすいが、実は我々の日常に関係が薄そうな窒素・リン循環の破壊も、温暖化の大きな原因になっているから無視はできないだろう(SDGsの削減目標には入っていない)。無論、この窒素・リン循環の破壊は主に効率優先の現代農法が引き起こしているわけで、いずれの限界突破も強硬な人類の成長戦略が招いた結果と言える(※2)。
マクロ経済学的、成長しているような錯覚
このように、もはや右左云々の思想など関係なく、物理問題として人類の成長に限界が訪れていることは明白だ。かく言う日本もすでに成熟経済の段階にあり、海底からメタンハイドレートを掘り出せたところで従来の石油による発展には遠く及ばないし、一部分野では未だ世界トップレベルにあるものの、それだけで国全体を引き上げる力はない。年々人口も減少していくなかで、到底自然な形での成長など期待できないはずだ。
にもかかわらず、なぜ日本の名目GDPは毎年じりじりと上がり、株価は史上最高値を更新しているのか。答えは“自然な形での成長”を終えてもなお、その先の仮想領域で富を得続けたい権力の謀(はかりごと)、金融政策と制度的仕掛けによる“成長の演出”に他ならない。
例えばそれは、近年の金融緩和政策を見てもわかる。脱不況や経済安定を隠れ蓑に金利を下げ、通貨供給量を増やすことで市場にマネーを流し、資産価格を人為的に上昇させる。一部の富裕層が得た利益を懇意のメディアを通じて「経済回復」「◯◯ノミクス」と打ち出せば、純真な庶民は希望を持ってしまう(※3)。
さらに酷い仕掛けは、昨今、権力が声高に打ち出しているNISA(少額投資非課税制度)だろう。表向きは「国民の資産形成を支援する」などと耳障りがよいものの、実態は株式市場への個人マネー誘導装置と言える。本来、資産価格の上昇は企業の業績や生産性の向上といったファンダメンタルズに支えられてこそ健全だが、NISAは制度的に投資需要を爆増させ、裏打ちのない需要から株価を上げる。撒き餌を使って庶民の小口資金を市場に誘導し、それで価格を吊り上げて、あたかも経済が成長しているように見せかけているのだ。
権力に操られたメディアや裏が読めないSNS界隈では、「NISAで年間○万円儲けた!」「投資は早く始めるべき」という成功談にあふれている。しかし、その裏で本当にほくそ笑んでいるのは、何十億、何百億という資金を動かす権力側だろう。庶民が数千円、数万円のキャピタルゲインで一喜一憂している間に、彼らは膨大な売却益を得ているわけだ(※4)
かの前澤社長は、このロジックとほぼ同じ仕組みで動く自社サービス「カブアンド」において、一番利益を得るのは自分だとあえて明言した。これは暗に、本当の目的をひた隠しにする権力への批判、あるいは踊らされている庶民への警告なのかもしれない。
日本はまさに乱世。アウトドアマンは静かに独立せよ
限界を超えた成長戦略が招いた経済の悪化、自然災害の乱発、疫病の蔓延、要人の暗殺、外国人の流入……。諸々の経緯に違いはあれど、現代日本を取り巻く状況を見て思い起こされるのは、古代ローマの末期である(※5)。日本を代表する政治思想家・丸山眞男がこの時代を「人類の歴史経験のすべてが詰まった時代」と評した通り、今起きている大抵の出来事は、およそ2千年前の人類が経験済みというわけだ。きっと古代ローマ人たちが昨今の日本を見たら、こう言うだろう。
「平たい顔族は我々と同じく“パンとサーカス(エンタメ)”に現を抜かし、威勢のよい為政者を推し活気分で応援してしまう。きっと我々の古代自由国家と同じく、腐敗した政治は度重なる外圧にさらされる中で“第一市民”の理想を捨て、“ディオクレティアヌス”が強いたような専制君主制へ逆戻りするだろう」
残念ながら、“歴史は繰り返す”はこの世の理(ことわり)だ。おまけに現代日本が衆愚政治(※6)の真っ只中にあるなら、わざわざ不便な自然界に出向いて自身の都市生活を顧みるようなアウトドアマン=少数派の警告や理想など、経済力や武力といったわかりやすい目標を前に馬鹿にされて終わるだろう。ならば我々が採るべき生き方とは何か。
どうにも抗えない強大な時代の流れの中で、我々は日本人として粛々と真っ当に過ごしつつも、一方で自身の内面に有限の地球に見合った“自力のポリス”を建国して信じた道をいくより他ない(まさに写真の男のように)。はじめのうちは週末の数時間、知恵と技術が身についてきたら、このポリス生活を日常のサブシステムとして取り入れていく。何が起こるかわからない乱世では、食料や生活道具の自給力こそ最強の能力。皮肉なことだが、成長戦略がもたらす有事こそ、我々アウトドアマンの生き方が試される時だ。
※1 ここで言う“新しい原子の誕生”とは、既存の原子が化学反応によって新しい原子に“姿を変える”ことではなく、膨大なエネルギーがクオークや電子といった素粒子となり、それらが結合して真新しい原子を“創造する”ことだ。素粒子を作るためには質量×光速の2乗のエネルギーが必要となるため(E=mc²)、人間の力では到底無理な話だろう。ゆえに宇宙規模で見ても、無限の資源など存在しない。
※2 一部の成長論者が「数百年かけて1℃程度の温暖化のために経済を止めるのは……」というイケイケ発言をしているが、人間は体表を35℃に保てなければ死んでしまう。つまり気温35℃以上、湿度100%という環境では汗をかいても蒸発せず、身体へ熱が流れ込み続けてしまうのだ。実際の研究ではこれよりさらに低い31℃が限界という結果(米ペンシルバニア大/ラリー・ケニー)も出ているわけで、日本を含む熱帯~亜熱帯気候にて、1℃程度の温暖化は肝心の経済活動すら破綻させる危険がある。
※3 この時盛んに言われたのが、富裕層や大企業を優遇する政策で経済が活性化すれば、その恩恵が低所得層まで徐々に波及していくというトリクルダウン効果。その結果は……現在の通り。本来、技術革新や設備拡充の目的は人類全体の負担軽減であり、それを以って人員を削減し、権力が利益を独占するのはおかしな話だ。
※4 この仕掛けは儲け話だけでは終わらない。重要なのはNISA口座が増えることで、「国民の過半数が投資をしている」という政治的な既成事実が生まれる点だ。これは将来的に年金制度の縮小、自己責任の拡大、社会保障の切り捨てを正当化する土台となるかもしれない。家計の足しになるので庶民が利用することに異論はないが、この流れを推進するような為政者の思惑には注意が必要だ。
※5 ローマ末期、特に“3世紀の危機”と言われる時代は地球規模の寒冷化、それに伴うゲルマン民族の大移動や食糧危機、長期的な衆愚政治による行政腐敗、疫病による人口減少、これら多くの理由が重なって起きた経済破綻など、まさに乱世と呼べる世の中だった。
※6 衆愚政治とは自覚のない無知な大衆が政治を誤った方向へ導くことを指す政治学用語。古代ギリシャの哲学者プラトンやアリストテレスによって、民主政治の堕落した形態として批判された。扇動政治家(デマゴーゴス)が民衆を巧みに操り、ポピュリズム的な言動で支持を集め、民衆を誤った判断に導くことでしばしばこれに陥るとされる。SNSが発展した昨今ではJ・S・ミルの「多数者の専制」と相まって、より強力に現れている。

※この記事は2025年12月発売『Fielder vol.80』に掲載されたものです。
野営道具定期便 第六弾
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