身近な野営道具の真の実力を 完全解放する
防水性を持たせた一枚地という最もシンプルな野営道具・タープは、一般的にはキャンプの初級装備として親しまれている。その用途を見ても日除け・雨除けといったぐらいで、機能性を盛大に謳えるテントや火器に比べて存在感は小さい。しかし、ある意味で機能性があまり謳えないほどに単純な形だからこそ、用途を自在に変えられる懐の深さを備えている。現に、限られた道具を駆使して野生を切り抜けるサバイバルシーンにおいてタープは主役級の装備なのだ。タープの機能性は使い手の実力そのものである。
これだけ覚えれば高難度技にも対応できるタープ設営の基礎知識
タープの機能性を最大限に引き出すためには、使い手の知恵と技術が必要と先に書いた。そこでここでは、タープを使いこなしていくうえで覚えておきたい設営の基礎に着目する。例えば玄人が織りなす複雑なタープシェルターも、この基礎の上で成り立っているのだ。
Lesson.01
タープの棟構築

最も簡単にして最も強いダイニングフライの基礎
タープと聞いてまず思い浮かべるのは、リビングエリアの上に三角屋根状に広がるダイニングフライである。スキルの向上を目指す人間には単純な見た目に物足りなさを感じるだろうが、装備の軽量化、設営の迅速さ、耐候性の高さなど、様々な条件を考えると結局これが万能の設営法なのだ。ただし、先人が親しんできたダイニングフライは、タープの説明書に載っているポール2本を用いた設営法ではない。数トンもの荷重に耐える健康な樹木間に、強靭なロープをピンと張ってタープの“棟”とする。ここでは登山ガイドが多用する方法で強靭な棟を作ってみよう。

棟はダイニングフライの設営だけに用いる構造ではない。焚火好きが多用するアディロンダック型も、棟を作ることで一層強固になる。
[起点の設置]

最も単純なのはロープを木に回してボウラインノットを作る方法だが、後から高さを調節しやすいのはスリングをひばり結びで樹木に巻いて、そこにダブルエイトノットで先端に輪を作ったロープをカラビナで繋げる方法だ。
[終点の設置]

終点側は棟の張り具合を調整できる自在構造を作っておくとよい。基本的にピンと張った方が強度は増すが、雨天でルーフを下げたい時には棟を下げる必要がある。


高強度な自在の構築
樹木にロープを回し、適当な位置にダブルエイトノットを作る。続いてロープが立木に回り込む直前にスリングをクレイムハイストノットで巻き、2つのノットをカラビナで連結する。後はクレイムハイストノットの結び目を起点方向へ引けば、ピンとロープが張るはずだ。
[タープの設置]

棟にタープを掛ける際は、両端のタブをフリクションノットで引いてタープ自体にもテンションを掛ける。ノットは移動できるので、タープ位置の微調整も可能だ。
ルーフの高さで天候変化に対応
雨風や日差しなどの状況により、フライの高さを簡単に変えられるのも棟を用いた設営法のメリットだ。棟はクレイムハイストノットでテンションを掛けているため緩めるのも簡単。当然、棟の高さを変えるとフライの高さも変わるのだ。



タープ内の風通しを良くしたいならフライは高く、雨風の侵入を防ぎたいならフライは低く調整する。ルーフを地面にペグダウンしてしまえば「Aフレーム」となる。
アンカーは現地素材を活用することもできる



ガイラインのペグダウンは野営地の環境によって様々。枝ペグは当然、大きな岩が転がっている河川の近くならそれに結びつけておくだけでペグ以上の強度が出せるので便利だ。蔓系の草や笹を束ねてクローブヒッチで留めておくのも有効。